七・五・四2010/01/16 15:30

七本スポーク
「スポークが七本の車のホイールも、ボルトはだいたい五個でしょう。あれは気持ちが悪いなあ」

 暮れに、造形作家の日詰明男さんが来たときの、彼のつぶやきである。
 話の流れをよく覚えていないのだが、「車のホイールを見て、七回の回転対称だとか感心しているひとは、あなたと日詰さんしか知らないわ」という妻の弁から始まった話だったと思う。

 七回回転対称のスポークが増えたのは、ここ10年ぐらいの傾向のような気がする。そして、ボルトの数は四本というものもある。

折鶴と客星と2010/01/17 12:53

 国立天文台ニュース2010.01の小栗順子さんの、藤原定家とメシエ1星雲を扱った切り絵に、折鶴を見つけた。小栗さんは、お会いしたことはないが、国立天文台図書館司書で切り絵作家というかたで、国立天文台のカレンダーにも、すばらしい作品を提供している。

 …で、細かいこと。デザイン的な配置なので問題はないけれど、藤原定家(1162- 1241)の時代に、折鶴はたぶんない。文献上たしかな折鶴の存在は、17世紀末頃である。もっとも、定家撰の百人一首を元にした歌かるたも江戸期のものなので、かるたと折鶴という図案は相応しいとも言える。

 なお、後年メシエ1(超新星残骸、かに星雲)と言われることになる超新星の出現に関して定家が書きのこした『明月記』(『名月記』は誤植)は、後世そう名付けられた日記で、以下のように記されている。

後冷泉院 天喜二年四月中旬以後丑の刻 客星 觜 参の度に出づ 東方にあらわる 天関星に孛す 大きさ歳星の如し
(『明月記』藤原定家 から読み下し)

 天喜二年は1054年で、「客星」は突然現れた星のこと。「觜」はオリオン座λ星・メイサ、「参」はオリオン座δεζの三つ星、「天関星」は牡牛座ζ星、「歳星」は木星のことだ。
 というように、この超新星出現は、定家の実見ではなく、伝聞である。

 そして、最近のニュースによると、オリオン座α星・ベテルギウスも、近く超新星爆発する傾向が見られるという。ベテルギウスは近い(と行っても600光年以上だけれど)ので、超新星爆発すると、満月と同じぐらいの等級になるらしい。しかもそれが一点集中で光るわけだ。まあ、天文スケールなので、いつのことかはわからないけれど、見てみたいような…。

XX年X月以後 平家星 眩耀 月の如し

(源氏星→平家星:諸説あるらしいけれど。修正 1/19)
 しっかし、このネタ、マヤ暦の2012年がどうとかと一緒に、終末論のひととかが使いそうだなあ。(じつは、暮れに映画『2012』を観てしまった)

デビルズ・ダズン・キューブ2010/01/19 20:41

デビルズ・ダズン・キューブ
 日本の煉瓦の規格は、歴史的理由で210x100x60になっているが、三次元の畳のようなものと考えれば、1×1×2も面白い。なんてことを、先日、近所にあった「四畳半」的な煉瓦積みを見て思った。そこで、問題。

 1×1×2の直方体13個を使って、中心に1×1×1の穴のある立方体を組むとき、すべての面を同じ模様にすることは可能か。

 詳細は省くが、これは不可能である。しかし、13個という数がでてくるのがちょっと面白く、13はデビルズ・ダズン(悪魔のダース)などとも呼ばれるので、「デビルズ・ダズン・キューブ」という、ちょっと洒落た名前も思いついた。で、問題を別のものにしてみた。

 正方形の二面に一つと、長方形の隣り合う二面に二つづつの丸印のある1×1×2の直方体13個を使って、サイコロをつくれ。

 これは、パズルとしては簡単なような…。

約22.5度はうれしい2010/01/20 21:36

22度ハロ
 今日、野辺山観測所の談話会で、自然写真家・牛山俊男さんの話があった。低緯度オーロラや流星痕など、珍しく美しい写真に圧倒されたが、牛山さんが写真家を志した頃のものという、暈(かさ、うん、ハロ)のかかった月の写真もよかった。月を中心にして、同心円状に光の輪があるという写真である。
 わたしは、気象現象の中でも、とりわけこのハロが好きだ。なぜか。角度が好みの角度なのである。ハロには、いくつか種類があるが、最もよく見られるのは(わたしは、これしか見たことはない)、22度ハロである。月や太陽を中心にして、光の輪が視半径約22度のところにできるものだ。この約22度という値は、以下のようにして決まる。

 22度ハロをつくるのは、六角柱の氷の結晶である。氷柱の側面から太陽光が入射し、ひとつおいた側面に抜ける場合、入射の角度によらず面の角度と氷の屈折率だけで、屈折方向が決まる。式は、2sin-1(Nsin(θ/2))-θというもの(Nは屈折率で、θはプリズムの頂角)になる。氷の黄色光に対する屈折率は約1.31という値で、六角柱のひとつおいた2側面のプリズムの頂角は60度になるため、結果は約22度になる。
 46度ハロというものもある。これは、氷柱の末端面と側面ひとつがプリズム面となること(つまり、 90度プリズム)によるものである。(参考文献:『自然の中の数学 上』(J.アダム著  一樂重雄、一樂祥子訳))

 というように、1.31という氷の屈折率と六角柱の氷の結晶というかたちから、屈折の角度が、直角の1/2(45度)と1/4(22.5)に近くなるのである。

 それがどうしたかって。「折り紙設計」創成のころからは隔世の感があるが、折り紙創作者同士の会話で「22.5度系だね」などという言葉が普通になっているように、22.5度というのは、折紙者にとって、調和あるかたちをつくるときの、特別な角度なのである。近似的ではあるが、意外なところに22度などという値がでてきただけで、うれしくなるのだ。

 地球の地軸の傾きが23.5度というのも、惜しいなあと思う。こういう偶然を喜び過ぎるのはオカルトなんだけれど。

ハートの方程式2010/01/21 21:14

ハートの方程式など
 地元の折り紙講習会のネタ用に、まあまあ折りやすいバレンタインの包みを創作した。裏にも表にもハートの模様があるのが趣向である。
 折り紙でハートをつくるときにいつも思うのは、丸みをどこまで表現するかだ。最近は、直線が残っていても、折りを最小限にするのがよいと思っているのだけれど、この作品では、表面だけすこし折り込んでみた。

 「紙でつくる」ハート型では、柱面の向かい合う母線に山折りと谷折りの折り目をつけたものがきれいだ(写真)。これは、折り目の拘束条件をどうするかが大きいが、インボリュート曲線(円の伸開線)をふたつ合わせたかたち(図)で近似できるのではないか、…と思う。

 そして、Wolfram Mathworldで、以下の、ハートの方程式を見つけた。

(X2+Y2-1)3=X2Y3

 右辺に係数をかけるだけで、切れ込みの大きさの調整もできる。さらに、等号を不等号にすると、内部と外部を示すことになる。

 この式から、アホなネタを思いついた。染色体にならって、XXを女性(F)、XYを男性(M)に置き換えるのである。すると、式は以下のように変形できる。

(F2+M2-F)3=±M3F3/√F

 つまり、女性の事情と男性の事情が加わり、女性が身を引いた場合、その惨状は、ふたりの惨状を掛け合わせたものになるが、それは女性の根(性)によって割られている、それがハートというものだ、ということである。…なんのこっちゃ。

ナノ世界のウェットフォールディング2010/01/23 00:53

Soggy Origami
 同様の話は、1年ほど前に、東京大学生産技術研究所の栗林香織さんのプレゼンテーションでも聞いたことがあるけれど、『Natute』2009年12月17日号に、ペンシルベニア州立大学のV.H.Creapiさんによる、ナノスケールの自発的な折り紙の記事、題して『Soggy Origami』が載っていた。電子版はこちら(全文読むには、ログインが必要)。
 記事の内容は、数十ナノメータ(10万分の数ミリ)の、水滴と炭素膜による折り畳み現象についてで、たとえば、花弁状の炭素膜が、水滴が触媒となって、それを包むかたちに変形する現象などである。
 Soggyというのはずぶ濡れという意味で、これは、ナノ世界の「ウェットフォールディング」と言える。
(ちなみに、ウェットフォールディングというのは、近代折り紙の父・吉澤章さんが開発した、硬い紙が折りやすくなるように、そして、できあがったときに造形が固まるようにするために、紙を水にひたして折る技法のことである)