今日、野辺山観測所で、シニュアス(波状)アンテナに関する談話会があった。シニュアスアンテナというのは、広帯域観測などのための、同心円構造を発展させたギザギザ形状のアンテナである。ここでは、四つの同じパターンを組み合わせている(図は中心部分を省略)。アンテナ相手の仕事をしているのに、アンテナにまったく詳しくない愚生、その図形パターンの美しさに惹かれた。
このアンテナの特徴のひとつは、アンテナ部分と隙間が同じかたちになることだ。このようなアンテナを、自己補対(self complement)アンテナと呼び、周波数によらずインピーダンスが一定になるのだそうだ。なお、自己補対アンテナの原理は、八木・宇田アンテナの発明者である伝説の工学者・八木秀次、宇田新太郎の直弟子・虫明康人さんの発見とのことである。日本のアンテナ技術って伝統があるんだなあ。
で、帰宅してから、自己補対だけが気になって、それを使った造形ということだけを考えてしまうのが「かたちバカ」のわたしなのだった。正八面体の表面から自己補対構造と言えるものがつくりやすいことを使って、四枚の正三角形で、自己補対八面体(つまり、四つが面で残り四面は穴になる八面体)をつくること。今夜のテーマはそれに決定!
で、幾何学的には点で繋がることになるわけだが、糊付けと、小さな切り込みを使ってつくってみた。すでにありそうなものだが、なかなか美しい。
かたちバカって、いい名前ですね。新しいかたちに飢えていて、ちょっと身を滅ぼしそうな。でも、身を滅ぼすくらいの芸でなければ、身を助けることもないのかなあと思います。素敵です。私もそんなふうに呼ばれてみたい。かたちバカの会を発足して頂ければ、すぐに入会したいと思います。
そして自己補対、美しい。新鮮でした。何かに似ているなあと朝見たとき思って、やっとさっき思い出しました。牽強付会ですが、私のサイトの「うなぎのらくがき」コーナーにある、フラクタルっぽい壁紙です。
じつは、このシリーズには元ネタがあって、高校生の時に予想したある定理に関係しています。「任意の多角形(凸でなくてもよい)は、任意の個数の互いに相似な図形に分割できる」というものです。厳密には境界上の、測度ゼロの集合を除く必要があるのですが、たぶん高次元に一般化も可能です。元の図形を多角形に限らなければ、自己補対はこれの特殊なケース(ふたつの合同な図形に分割)に相当する訳です。
じっさいに絵を描けば、直観的には明らかで、たぶん再発見に過ぎません。いまケータイしかないので、言葉で説明させて下さい。もとの多角形をPとします。Pに辺で内接する、Pに相似な多角形Qを考えます。PをQに移す縮小写像をφとします。つまり、Q=φ(P)です。和集合を+、差集合を-で表すことにして、ちょっとインチキですが、
R=P-φ(φ(P))+φ(φ(φ(φ(P))))-……
S=φ(R)
とすると、Pは境界上の点を除いて、RとSに分割されることが分かります。最初のφをうまく選べば、Rを(ということはSも)連結な集合とすることが可能です。辺で内接させるのも、このための工夫です。見つけた当初は、何とかを覚えた猿のように、フリーハンドの落書きを描きまくって遊んだものでした。
いちどこの作り方が分かれば、任意の個数の分割への拡張も簡単です。φとは別の縮小写像ψをうまく選んで、両方いっぺんに引き算すればよいのです(説明が大雑把ですみません)。
きちんと証明した訳ではありませんが、この構成方法はたぶんいつでも使えます。でも、題意を満たすすべての分割を構成することはできません。たとえば、ご紹介の自己補対アンテナや八面体は(美しすぎるので)この方法では作れません。
すみません、間違えました。
R=P-φ(P)+φ(φ(P))-φ(φ(φ(P)))+φ(φ(φ(φ(P))))-……
S=φ(R)
です。試しに、φが分配法則をみたすと仮定して、R+Sを計算してみて下さい。言葉遣い的には、分配法則というより、集合の加減算に関する線形性という方がいいのか、ちょっと自信がありませんが……。
次の記事をアップロードしようとして、コメント読みました。自己相似的なタイリングは、螺旋ぐらいしか試したことがないので、とても面白いです。
シニュアスアンテナは、エッシャーの『Rippled Surface』という版画にも似ていると、気付いた。
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そして自己補対、美しい。新鮮でした。何かに似ているなあと朝見たとき思って、やっとさっき思い出しました。牽強付会ですが、私のサイトの「うなぎのらくがき」コーナーにある、フラクタルっぽい壁紙です。
じつは、このシリーズには元ネタがあって、高校生の時に予想したある定理に関係しています。「任意の多角形(凸でなくてもよい)は、任意の個数の互いに相似な図形に分割できる」というものです。厳密には境界上の、測度ゼロの集合を除く必要があるのですが、たぶん高次元に一般化も可能です。元の図形を多角形に限らなければ、自己補対はこれの特殊なケース(ふたつの合同な図形に分割)に相当する訳です。
じっさいに絵を描けば、直観的には明らかで、たぶん再発見に過ぎません。いまケータイしかないので、言葉で説明させて下さい。もとの多角形をPとします。Pに辺で内接する、Pに相似な多角形Qを考えます。PをQに移す縮小写像をφとします。つまり、Q=φ(P)です。和集合を+、差集合を-で表すことにして、ちょっとインチキですが、
R=P-φ(φ(P))+φ(φ(φ(φ(P))))-……
S=φ(R)
とすると、Pは境界上の点を除いて、RとSに分割されることが分かります。最初のφをうまく選べば、Rを(ということはSも)連結な集合とすることが可能です。辺で内接させるのも、このための工夫です。見つけた当初は、何とかを覚えた猿のように、フリーハンドの落書きを描きまくって遊んだものでした。
いちどこの作り方が分かれば、任意の個数の分割への拡張も簡単です。φとは別の縮小写像ψをうまく選んで、両方いっぺんに引き算すればよいのです(説明が大雑把ですみません)。
きちんと証明した訳ではありませんが、この構成方法はたぶんいつでも使えます。でも、題意を満たすすべての分割を構成することはできません。たとえば、ご紹介の自己補対アンテナや八面体は(美しすぎるので)この方法では作れません。