『面之體圖』(追記:正しくは、『面及體圖』 ) ― 2008/12/18 12:56
日本で通貨単位に円が使われたのは明治四年からだそうだが、これに配慮したのかもしれない資料を、何年か前、玉川大学教育博物館で見たことがある。『面之體圖』という、文部省による明治七年の標準幾何学用語を示した資料だ。『面の体図』という題がまず謎で、解明していないのだが、ちらと見ただけで意外性があった。たとえば、いまでは完全に混乱というか、区別なしにまとめて螺線(螺旋)と呼ばれることが多い、渦巻線(spiral)と弦巻線(helix)が、渦線と螺線として区別されている。漢字の熟語は読みに自由度があるのが特徴なので、螺線は、ネジセンと読むこともアリ、と想定していたのかもしれない。なお、spiralという言葉の「混乱」は英語にもあり、螺旋階段は、helix staircaseではなく spiral staircaseというらしい。
より面白いのは、円を円と呼ばず、環としていることである。環というのは、いまの数学用語では、代数幾何で使う群や体といった用語と並ぶもので、ringの訳語として使われるのだが、一時期これは、円をも意味していたわけである。ワというのかカンというのか、直徑二寸の環とか、同心環なんてのを見ると、とても不思議な感じがする。そしてこれは、数年前に制定された通貨単位・円との混用を防ぐためにしたことなのではないか、というのがわたしの推測である。
表記は別にして、読み方はいっそのこと、やまとことばで「マンマル」にしてしまえば面白かったのにとも思った。円の直径ならぬ、マンマルのサシワタシとか。線はスジで曲線はマゲスジやウネスジ、三角形はミスミで、正方形はマヨスミとか。イカスミのマヨネーズ和えみたいだけれど、幾何学用語をやまとことばで表してみるのは、頭の体操になる。問題は「点」だが、これはホシであろう。ホシの同意語(?)であるポチでもよい。ポチはフランス語のプチが語源であるという説もあるらしいけれど。
ずいぶん前に読んだので細部は忘れているが、清水義範さんの小説『言葉の戦争』(『ことばの国』所収)でも、ストライクを「よし」、ボールを「だめ」と言い換えたように、漢字までもが敵性語として追放された日本、じゃなくてヒノモトのドタバタがえがかれていた。
コメント
_ tactom ― 2008/12/18 14:26
_ maekawa ― 2008/12/18 17:04
解釈は、tactomさんの言うとおりですね。
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とすると、二次元および三次元の図形、という意味と解釈できます。
しかし面白いですね。聚交線とか。平行じゃなくて並行だったりとか。