最大体積円錐とマラルディの角度2010/01/13 23:15

最大体積円錐
 今年になってから、ブログの更新が頻繁で、われながらどうしたのかと思うのだが、今日も更新である。どんなことにも「慣性」というものがあるのだろう。

さて。
 『本格折り紙』、『本格折り紙√2』と上梓したので、先日、次は何?と訊かれた。なんの考えもなく、反射で「√3とか」と応えると、同席していたひとが「πというのもあるよ」と言った。
 なるほどと思ったけれど、考えてみれば、すでに『折り紙π』に相応しい、三谷純さんの『ふしぎな球体・立体折り紙』という本がでたばかりであった。
 また、球面の折り紙の数学ついては、川崎敏和さんの研究が進んでいる。

 球面ではなく、円形膜の変形に関しては、まだ掘ることのできる鉱脈があるかな、とは思っている。『Origami4 - Fourth International Meeting of Origami Science, Mathematics, and Education』(R. J. Lang 編)に載った『フォーチュンクッキーの幾何学的系統樹』という論文は、わたしの中では、「円形折り紙」のいわば序説なのである。いつも、序説止まりなんだけれど。

 というように、円形膜の変形には、漠然とした関心を持っているわけだが、昨日、『機械じかけの数学-リーマンの定理、オイラーの公式への力学的アプローチ』(マーク・レヴィ著、松浦俊輔訳)という、買ったばかりの本をぱらぱらとめくっていて、その関心の釣り針にちょっとひっかかる、次のような折り紙的な問題に遭遇した。

問題:円にひだ寄せて円錐をつくる場合、側面になる扇型の角度をどうすれば、最大体積の円錐になるか

 本では、この問題を変わった方法で解いている。最大体積の問題と、気体のはいった円錐の容器における側面と底面の力のモーメントが釣り合う問題が等しくなることを示し、それを解くのである。立体が単純だからこれで解けるとも言えるし、普通に解いたほうが早いとも言えるが、面白い。なお、そのとき、直接解く値は、展開された扇型の角度ではなく円錐の母線がつくる「頂角」である。

 いっぽう、普通に解く方法は、入試問題みたいな感じになる。式をたてて、微分してそれがゼロになる極値を求めればよい。扇型の角度で解けば、それは、(2√2/√3)πラジアン、度でいえば、293.938..度となる。なお、入試問題テクニック風に言えば、扇型の角度を変数とした関数で解くより、円錐の高さを変数として解いたほうがはるかに式が簡単になる。
 そして、この簡単さは、答えの「美しさ」にもつながる。扇型の角度は、いまひとつ「すっきりしない値」だが、円錐の母線がつくる「頂角」のほうは、おっと思う値になっているのだ。これは知らなかった。

 円錐の半径と高さの比が√2対1になる場合が、体積最大なのである。つまり、この円錐の母線のなす角度は、ダイヤモンドの結晶や蜂の巣の末端、石鹸膜などに見られる特別な角度「マラルディの角度」なのであった。

コメント

_ Joker ― 2010/01/15 01:51

こんなところにマラルディの角度が。感動しました。

円錐と欠損角といえば、一般相対性理論を思い出します。曲率を欠損角に翻訳できる訳ですね。高校のときの物理の先生、所属していた科学部の顧問の先生が、時空次元論という物理の理論を構想していました。
発想としては、なぜこの世界は三次元なのだろうという疑問に端を発します。ビレンケンのフロム・ナッシングを拡大解釈して、宇宙がゼロ次元からスタートしたとしてもいいではないか。というものでした。

この、曲率の欠損角への翻訳にも興味があって、曲がっているということは、ある意味で空間が損なわれているということです。たとえば、曲率を次元数の微小なずれとして解釈し直せないか。そんなことを先生は考えていました。フラクタルで言えば、2.9次元の世界は3次元測度でゼロになるほど損なわれている訳です。

相対性理論の実証として、水星の近日点移動の説明があります。そしてニュートンの万有引力の法則「引力は距離の二乗に反比例」は、空間が三次元ということに密接に関係しています。球の表面積が半径の二乗に比例するから、重力はそれに反比例して減衰する。電球から遠くなるに連れて暗くなるというのと同じ理屈ですね。計算してみると、水星の近日点移動では三次元+εと、高い次元の側にずれるという解釈ができます。

じつはビッグバンの高エネルギー状態をイメージすると、この結果は、いまいちフロム・ナッシングとは整合しないのですが、いろんな考え方ができるのだなあと、自由な発想に目を開かされました。その後、このアイデアは様々な発展を遂げるのですが、それはまた別のお話。先生とは、いまでも交流が続いています。

_ maekawa ― 2010/01/16 02:21

 ポアンカレ予想(改め定理)も、二次元以下と五次元以上が先に解け、四次元がそれに続き、三次元が一番難問だったということであり、三次元というのは、すくなくともわれわれにとって、特別に豊かで謎の多いものなのじゃないだろうかと、漠然と思います。

 SFネタ的理論では、こんなのはどうでしょう。まず、進化というのはなぜか複雑化する傾向にあるということを認めてしまう。(参考:http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2366874/2754390) そして、空間の成り立ちにも進化を適用する。空間が三次元であるのは、より低次元から、または、より高次元から「進化」して「数学的に複雑な三次元」になったためなのであるとする。(超弦理論では、空間次元は10で、余剰次元はまるまっているということになってますね)

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
スパム対策:このブログの作者は?(漢字。姓名の間に空白なし)

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://origami.asablo.jp/blog/2010/01/13/4810695/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。