江戸時代の和算書『算法身之加減 補遺』(渡辺一(わたなべかず) 天保元年 1830)に、折鶴に関する計算問題(羽根の幅から長さを計算する問題)があることを確認できた。同書の前書きなどから推定すると、この問題がつくられたのは、天明八年(1788)から文化九年(1812)の間のことである。
『算法身之加減』の問題を引用している、渡辺の弟子・佐久間纉(さくまつづき)の『當用算法』(嘉永六年 1853)の記述から、『算法身之加減』に、折鶴の計算問題が掲載されているはずだと、以前から気になっていたのだが、先日、『折紙探偵団』に『折形算法散歩』というエッセイを書いているさいに、あらためてこのことを確認しておかなくては、と思いたち、福島県立図書館で調べてきた。問題は、予想通り『當用算法』のものと同一であった。
福島県立図書館
『算法身之加減』は出版されなかった本で、渡辺の没後130年、いまから40年ぐらい前に、佐久間の蔵書の中で「原著」が発見され、福島県和算研究保存会によって1977年に復刻されたものである。元の本も幻の本であったが、復刻版も100部余りなので、入手は困難である。つい最近、神保町の古書店のガラスケースの中にあることも見つけたのだが、かなり高い値がついていて、手がでなかった。デジタル化されているという情報もない。そこで、一番ゆっくり閲覧できそうな福島県立図書館に行って確認した、というわけである。
この折鶴の計算問題については、まだまだ面白いことがありそうだと思っている。なお、11月刊行予定の『折紙探偵団 136号』の『折形算法散歩』でおもに扱ったのは、この問題にも関連する、千葉県の算額に関してである。
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福島に向かう新幹線では、
『戊辰算学戦記』(金重明)という、和算に戊辰戦争をからめた小説を読んだ。新刊書籍では入手困難になっているのだが、この機会にどうしても読みたくなって、古書店で購入した。主人公は、フランス人から西洋数学を学んだ、二本松藩出身の幕軍の部隊長で、駐屯先の越後で、和算家と交流するという設定である。
じっさいの戦場でも、数学の問題を考えていた兵士はいたのだろうな、とも思った。塹壕の中で『論理哲学論考』を書いていた哲学者・ウィトゲンシュタインのように。なお、戊辰戦争と算学者の史実では、次のようなものがある。
渡辺一の曾孫・木村銃太郎:算術に秀でていたが、二本松藩の二本松少年隊の隊長として22歳で戦死した。一関の算学者千葉胤秀の孫・千葉量七:算学者であったが、刈和野の奪回戦において25歳で戦死した。
『算法身之加減』を持っていた佐久間纉も三春藩の藩士で、歴史の激流に揉まれたはずのひとである。しかし、影響がないはずはないのに、彼の伝記的事実をざっと追っただけでは、それはまったく見えない。このような時代で、佐久間は、数学や詩歌に平常心で打ち込んでいたように見える。不思議なほど穏やかに見えるのだ。和算から洋算という激動もあったわけだが、維新後につくった算学塾でも、多くの門人を育てている。
というように、社会や時代と個人の距離のとりかたというのも、ひとし並みではない…などと考えた旅でもあった。こんなことを考えたのは、福島の市内を歩き、穏やかなふつうの暮らしを感じたことも大きい。
初めまして。福島県の船引街佐久間庸軒和算保存会会員の仲澤です。先生の『空想の補助線 幾何学、折紙、ときどき宇宙』を購入して拝読させていただきました。幾何の広がりに驚きながら読み進みました。ありがとうございます。
昨年の夏に庸軒書斎で『算法身之加減補遺』(3部作成した一番最初に書いたもの)を見つけました。その中の12番目の折り鶴の翅長を求める問題に注目して調べたところ、順天堂算譜の類似問題までたどり着きました。これを機に『算法身之加減』をデジタル化して見える化をしなければと思い、この度一枚のCDへまとめたところです。「補遺」は県研究会で130部作成したもの(途中から書体が変わっている)と現在庸軒書斎にある物(渡邉一が最後まで書いたとおもわれる)、2種納めることができました。若干違いがあって比較するのも面白いかも知れません。
もし、良ければお送りしたいと思います。
前川先生 いかがでしょうか?お返事いただけたら幸いです。
福島県田村市船引町石森字駒場8 仲澤市雄
メールで連絡します。
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昨年の夏に庸軒書斎で『算法身之加減補遺』(3部作成した一番最初に書いたもの)を見つけました。その中の12番目の折り鶴の翅長を求める問題に注目して調べたところ、順天堂算譜の類似問題までたどり着きました。これを機に『算法身之加減』をデジタル化して見える化をしなければと思い、この度一枚のCDへまとめたところです。「補遺」は県研究会で130部作成したもの(途中から書体が変わっている)と現在庸軒書斎にある物(渡邉一が最後まで書いたとおもわれる)、2種納めることができました。若干違いがあって比較するのも面白いかも知れません。
もし、良ければお送りしたいと思います。
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福島県田村市船引町石森字駒場8 仲澤市雄