本の装幀に縁があった週末2012/11/06 22:40

先週末は、なぜか本の装幀に縁があった日々だった。
まずは土曜日。
和算の本などを探しに行った高円寺の西部古書会館の古書市で、『とにかく、吉行淳之介。』という本を妻が見つけた。一目見るなり、叔父の前川直の装幀とわかる本である。しかし、この本は知らなかった。挿絵も多いので「見ごたえ」もある。
とにかく、吉行淳之介。

身内びいきもあるだろうが、前川直の絵はいい。『リルケ詩集』をジャケ買いしたというひともいる。旧い新潮文庫の『リルケ詩集』の絵はわたしも大好きだ。
リルケ詩集

叔父の装幀に雰囲気が近いものに、野中ユリさんの仕事がある。野中さんの装幀は、たしか、中公文庫の『僧正殺人事件』で知ったが、武田百合子さんの『ことばの食卓』は、挿画も多く、多面体も描かれていてすばらしい。
ことばの食卓

叔父はかなり多くの本を手がけているので、古書店での出会いの確率はけっこう高い。以前叔父の書庫で見たときは、こんなにたくさんあるのかと驚いた。買わない作家もいるけれど…。ちなみに、吉行さんも、エッセイを数篇読んだことがあるが、小説はたぶん一篇も読んでいない。いっぽうで、二十歳前後のわたしがブンガクセーネンとなったのも、叔父が間接的に影響している。我が家に叔父が装幀した新潮世界文学全48巻があったためである。文学全集というのは一巻一作家であることが多いが、これはドストエフスキーだけで六巻あるというものだった。わたしはそれに読みはまった。

そして、日曜日にも装幀に関することがあった。
映画を観て帰宅すると、東秀明さんから一冊の本が届いていた。「折り紙関連資料のひとつに…」といった一文だけが添えられた『El Aleph』という本である。表紙の写真はたしかに東さんの作品で、裏表紙にも「Fotografia なんとかかんとか Hideaki Azuma」とある。しかし、スペイン語なのでなんの本なのかすぐにはわからなかった。
El Aleph

折り紙の数学の研究者である東さんのこと、アレフというのはカントールの無限の濃度のこと? しかし、数学の本にしては数式がないなあ、著者のJorge Luis Borgesってジョージ、ルイス、ボージス? いや、スペインなら、ホルゲ? などと悩んだあと、「ホルヘ・ルイス・ボルヘスだ!」と気づいた。ラテンアメリカ文学の巨匠である。かつてのブンガクセーネンとしては、ボルヘスの装幀に作品が使われるなんて、めちゃくちゃうらやましいぞ、東さん。

夜、『El Aleph』が載っていた集英社世界文学の一巻が本棚にあるはずと探した。しかし、見つからなかった。すくなくとも『汚辱の世界史』を買って読んだ記憶があるのに、『ブロディーの報告書』と『幻獣辞典』の2冊のみを発掘した。我が家の書庫も、蔵書検索が困難な「魔窟」化しつつある。

ちょっとシンクロしていたのは、ボルヘスと同じ・アルゼンチンの作家フリオ・コルタサルの『遊戯の終わり』の岩波文庫版を、まさに今読んでいるところだったということだ。これも、表紙の挿画がエッシャーの『星々』ということもあって買った本である。

そして、本棚の奥から引っぱり出した『ブロディーの報告書』を見てまたびっくり。装幀:北園克衛! 詩人の北園さんがデザインもやっているというのはなんとなく知っていた(神保町の小宮山書店の展示とか)けれど、こんなところに氏の仕事があったなんて。
ブロディーの報告書

以上、きわめてディレッタント的、身内自慢的な話でした。

G13型トラクターと12142012/11/14 00:19

G13型トラクター
本棚を整理するともなくながめていて、堀江敏幸さんのエッセイ『回送電車』シリーズの一冊目がないことに気がついた。シリーズはこれまでに五冊あるのだが、一冊目の『回送電車』は、読んだつもりで読んでいなかったのである。装幀が美しいので単行本で欲しいとも思ったが、文庫になってたのでそれを買った。
先日、ソファに寝ころがってこれを読んでいると、『三行広告について』というエッセイに「G13型トラクター」のことが書かれていた。
洋書店へ本を買いに出かけたり、大きなホテルのロビーで人を待っていたりするとき、私は読めもしない「ニューヨークタイムズ」を暇つぶしに売店で買い、雑報欄を開いて謎の三行広告を探すだろう。国際的スナイパーとの接触をはかるためでにではなく、G13型トラクターの名を慈しむために。

驚いたのは、わたしがこれを読んだまさにその日、毎日新聞にこの伝言を使った『ゴルゴ13』の広告が載っていたことだった。
なお、堀江さんはフランス語のみならず英語も達者だろうから、「読めもしない」というのはよくわからない。過剰な謙遜も似合わない。「読みもしない」のタイポだろうか。

わたしは『ゴルゴ13』のよい読者ではない(ラーメン屋さんで読むぐらい)のだが、高校に入学して家で学生証を見ていたさいの次の会話を思い出した。

「学生番号の1214って、1年B組14番ということかあ」
兄「1214か。ゴルゴ13と同じだな」

ゴルゴ13という通称の由来として、彼の囚人番号が1214だったというエピソードがあるのだという。しかし、あらためて考えてみると、1214から13という数字を読み取るのは迂遠である。旅客機の座席番号などで13番が忌み番号として欠番で「12, 14」となっていることがある。この例のように「12,14」という並びで13を連想するのは普通のことなのだろうか。
まさか、√121+√4=13という式だとか。

スカシカシパンの位相2012/11/22 23:02

スカシカシパンの位相など
東京都府中市の住宅街に「ポアンカレ空間」(加藤義次 作)と名づけられた彫刻がある。以前から気になっていたが、先日、確認して写真を撮ってきた(写真左上)。プレートに示されていた作者の加藤義次氏(1927-2009)は、寡聞にして知らなかったが、WEBで検索すると、幾何学的な彫刻作品を多数つくってきた彫刻家である。

向きづけされた閉じた連結空間(二次元でいえば、球やトーラスの表面)はすべてポアンカレ空間になる(はずな)ので、この命名と造形の意図はよくわからないが、そのかたちは、8個の立方体からなる四次元超立方体(正八胞体)の三次元投影にヒントを得たものと思われる。ただ、超立方体の三次元投影モデルということであれば、中央の立方体の穴の意味するところは不明である。

不明ではあるけれど、面白さはある。この穴は内部で境界をもっていて、円柱のパイプが、中央で連結するかたちになっている(図右上)。つまり、この彫刻の表面を二次元多様体として見ると、種数5の向き付けられた閉曲面(五重トーラス)になる。直感的には、穴の数は6個になるようにも思えるが、図右中のように、中央から6つに分岐する穴の数(種数)は5になる。

ここで思い浮かんだのが、ウニの一種であるスカシカシパン(図左下)である。スカシカシパンはひらべったいウニで、5個のスリット状の穴があいている。糸穴が五つあるボタンのようなものである。スベスベマンジュウガニと並んで変な名前をもった海の生き物の筆頭だ。

この彫刻は、二次元多様体として見ると、スカシカシパンと同相と言えるのでは、と思ったわけである。しかし、さらに調べてみると、排泄も口から行うイソギンチャク(球面と同相)と違って、ウニの消化器官は入口と出口があり、スカシカシパンの場合は、裏面中央の口と半径半分ぐらいのところにある肛門をつなぐ穴があるのだった(図右下)。すなわち、スカシカシパンは六重トーラスであった。

ちなみに、スカシカシパンの分類は、「タコノマクラ目カシパン亜目スカシカシパン科」で、それだけでも笑えるものだ。なにものなんだよおまえ、と。

なお、WEBでスカシカシパンを検索したら、2008年に、中川翔子さんのプロデュースでスカシカシパンをかたどった菓子パンが売り出されていたということを知った。スカシカシパンマンなるキャラクターまであったらしい。知らなかった。しょこたん、やるな。

反射衛星砲とか2012/11/23 09:00

某月某日 反射衛星砲
反射衛星砲(シャコバサボテン)
シャコバサボテンに花芽がついた。反射衛星砲に似ている。
「それで隠れたつもりか?」
「高エネルギー体 真上です!」

11月17日18日 折紙探偵団東海コンベンション
神谷哲史作品集2
折紙探偵団東海コンベンションに参加してきた。海外ゲストは、スペインのホルヘ・パルドさん。プレゼンテーションでパハリータ(小鳥を意味するスペインの伝承折り紙)の話があった。わたしの今回の講習作品のひとつは、パハリータを模様にした、その名も「パハリッポウ体」だったのだが、これは、たまたまである。
神谷哲史さんからは、サインをもらった。

某月某日 スライス
スライスされた家
家がスライスされていた。(名古屋市新栄)

某月某日 三毛猫
『回送電車』(堀江敏幸著)を読んでいて、『猫のいる風景』というエッセイに「近頃はあまりみかけなくなった三毛猫だが、」(略)「うちのじゃないけど、ナゾーっていうの、謎めいているし、雄猫だから」という記述があった。しかし、三毛猫に関しては、以下の事実がある。

猫が三毛の毛色になるための遺伝子には、X染色体上にあってXXで発現するものが必要になる。雄の染色体はXYであるから、基本的に雄の三毛猫はいない。クラインフェルター症候群というものでXXYやXXXYなどの染色体になった場合や、毛色の遺伝子がY染色体に移った場合に、雄の三毛猫が生まれるが、かなりまれである。赤川次郎さんの『三毛猫ホームズ』シリーズのホームズも、じつは雌猫である。

某月某日 正五角丸塔柱ランプシェード
正五角丸塔柱ランプシェード
正五角丸塔柱 のランプシェード(前川純子作 デザイン協力:前川淳)が完成した。

凧のマーク2012/11/27 22:00

凧のマーク
岸本佐知子さんのエッセイ集・『なんらかの事情』に、「カルミック」のことが書いてあった。
私はいま、ひそかに気にかけているものがる。<カルミック>だ。公共のトイレで昔からよく見かける、便器の配水管の途中から枝分かれして壁に取り付けてある、あの小さな銀色の箱。あれはいったい何をするためのものなのか。あの上部の穴の部分からいい匂いが出てくるのだろうかとか、あそこが実はマイクになっていてすべてを録音しているのかもしれないとか、いや逆に緊急時に放送が鳴り出すスピーカーではないかとか、子供の頃からいろいろに推理し、大人に質問してみたりもしたが、答えの出ないまま現在にいたっている。

そうか、あれは、女子トイレにもあるのか。わたしは、謎を謎のまま自分の中に飼いならす耐性が高くないので、あれはなんだろうと気になって調べたことがある。というわけで、なにをするものなのかはだいたい知っているのだが、マークと社名の由来に関しては、ずっと気になっているままである。マークは、Calmicの「i」のところが尻尾の一部になっている凧 - 西洋風の四辺形の凧 - で、直角二等辺三角形ふたつと22.5度67.5度直角の三角形ふたつによって構成されているものだ。折り紙においてきわめて重要な三角形なので、マークをぼんやり見つめながら、「22.5度系の作品だなあ」と、これまで何度も思ってきた。公共トイレという空間で写真を撮るのがはばかられることもあり、記憶の中だけにあるものだったが、今回WEBサイトから模写してみた。

calmicの意味についても、あらためて考えてみた。会社のサイトを見てもわからないので推測してみた。
cal : calm(落ちついた)mic : micturition(排尿)というのはどうだろう。
つまり、「用を足すときはあわてるな」ということである。