「数理にひそむ美」 展、そして菱田為吉の木彫の多面体2016/10/11 12:55


菱田為吉の木彫の多面体

東京理科大学近代科学資料館に、「数理にひそむ美」 展(10/15-12/10)のために、折り紙モデルを搬入したのだが、そのさいに観た、菱田為吉氏(1868-1943)の木彫の多面体がすばらしかった。あまり時間がなかったので、急いで観ただけなのだが、正多面体や菱形多面体だけではなく、相貫体や星型多面体などが、幾何学的な正確さでつくられている。

たとえば、星型化された多面体では、星型十二面体3種のすべてがあり、星型二十面体では、大二十面体などが確認できた。星型二十面体は、わたしの近著『折る幾何学』でもすこし触れたが、正二十面体自体を含んで全部で59種あり、コクセターらがそれを示した『The Fifty-Nine Icosahedra』を刊行したのは1938年のことである。晩年の為吉と時代が重なっているので、両者に交流があればもっと面白いことになっていたのではないか、と思わずにいられなかった。

細矢治夫さんなどから聞いたことはあったようにも思うのだが、菱田為吉氏のことは、きちんと認識していなかった。為吉は、東京理科大学の前進である東京物理学校の卒業生で、その後、同学校の講師などを務めたひとである。早くに亡くなった長兄に代わって一家を支えたひとでもあった。そうして支えられた弟に、日本画家・菱田春草(1874-1911)がいる。下村観山、横山大観と並ぶ「岡倉天心の三羽烏」のひとりで、37年弱の生涯を駆け抜けた、あの天才画家・春草である。また、下の弟の唯蔵(1881-1925)は、航空工学者の草分けである。なんとも才能に溢れた、理と美を融合する兄弟である。その要が菱田為吉なのだ。

「朦朧」が代名詞の春草と違って、為吉の多面体モデルが、輪郭画然たるかたちであるのも面白い。もっとも、春草といえば朦朧体であるが、それは、それ以外にないような「正確な朦朧さ」であり、また、彼のすべての絵が輪郭を描かない描法ではない、ということは述べておくべきだろう。

春草の『落ち葉』や『黒き猫』は重要文化財である。じっさい、たとえば『落ち葉』は、その前で立ち尽くしてしまうような、幻想の林の中に迷い込んだ感覚を与える、類まれな天才の筆だ。だが、大学の資料館にひっそりと(失礼)展示されている、為吉の木彫の多面体も、数学美術好きにとって、紛れもない「重要文化財」である。

「数理にひそむ美」 展(10/15-12/10)では、エッシャーの本物なども展示され、入場料は無料である。会期中には、いくつかワークショップなどもある。神楽坂近辺は、散歩もたのしいし、数学ファンなら行かなくては、という展覧会だ。

コメント

_ うえはら ― 2016/10/16 20:04

為吉さんが縁側で小刀で多面体を彫っている写真が展示されているので,今度じっくりと見てあげてください.ぐっときます :-)

_ maekawa ― 2016/10/17 20:56

その写真はちらと見ました。手作り感がみなぎっていますよね。

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