交差する円柱の共通部分2013/03/02 23:55


交差する柱面
柱面が交差するモデルをいろいろ試して、三つの正四角柱、三つの円柱、三つの菱形四角柱(内部空間は正十二面体)のすっきりしたモデルができた。それぞれ同一ピース6枚組で 、無駄なく美しいのだが、前例がありそうな匂いがした。案の定、パズル関係者のひとたちに訊くと、浜野明千宏さんの「くみがみ」のハマノズキューブ他と、野町直史さんのノマチズアイコサヘドロン(追記3/12 これも、浜野さんが同じものを先に考案していることもわかった)と同じであることが判明した。残念といえば残念だが、発見の喜びはあった。

交差する円柱の共通部分の体積は、和算の資料でも見たことがあるが、大学入試問題の定番でもあるらしい。円柱の半径を1として、二円柱(左)なら、16/3、三円柱(右)なら16-8√2となる。πがでてこないのが面白い。
交差する円柱の共通部分

これを、積分を使わずに計算する方法を考えてみた。(ただし、球の体積、円錐の体積などは既知とする)
交差する二柱面の断面
上は、ふたつの円柱の交差を半分に切ったモデルである。(ちなみに、切り込みは、サインカーブの一部になる)

見たとおり、二円柱の共通部分は、「カーブのついた四角錐状の立体」をふたつあわせたものだ。円弧に沿って大きさが変わる正方形を積み上げたようなかたちである。いっぽう、球は円を積み上げたようなかたちである。(「積み上げたかたち」というところに積分の発想がはいってしまっているけれど、それはそれ)
さて。正方形の面積とそれに内接する円の面積の比は4/πである。したがって、球と、ここで求める立体の体積の比も、円と正方形の面積の比と同じになる。半径1の球の体積は4π/3である。よって、求める体積は、4π/3×4/π=16/3と、単純なかけ算で計算できる。
正方形と円の面積比

三円柱の共通部分は、二円柱の交差と同じ「カーブのついた四角錐状の立体」の一部分(底辺が√2のところまで)が6つと、一辺√2の立方体があわさったかたちである。
交差する三円柱

この「カーブのついた四角錐状の立体」(底辺が√2)も、中心から√2/2の距離で切り取られた半径1の球の部分体積がわかれば、それに4/πを掛ければ計算できる。
球をスライスした部分の体積
ここで使えるのは、球をスライスした部分の体積の面白い特徴である。球をスライスした部分の体積は、球に外接する円柱を球のスライスと同じ面で切り取った部分円柱から、球の中心を頂点として円柱の円を底辺とする円錐面がつくる凹みを除いたトーラス状の部分(図左上)の体積に等しいのである。たしかアルキメデスによる発見で、ガリレオが『新科学対話』でも述べている。これは、 中心から距離xの平面で切断した時の球の断面積がπ(1-x^2)で、円柱から円錐台をのぞいた部分の断面(輪っか)の面積がπ-πx^2と、同じになるからである。

よって、錐体の体積=底面積×高さ/3 という公式を知っていれば、積分を使わなくても、次のように答えを求めることができる。

中心から√2/2のところで切り取った部分球の体積=円柱の体積-円錐台の体積=(1-√2/2)π-(π/3-( √2π/12))=(8-5√2)π/12
「カーブのついた四角錐状の立体」(底辺が√2)の体積=(8-5√2)π/12*4/π=(8-5√2)/3
三円柱の共通部分の体積=(8-5√2)/3*6+2√2=16-8√2

『宙の地図』2013/03/03 01:26

同じ作者の『時の地図』にも「折りヅル」の比喩があったが、続編の『宙の地図』(フェリクス J.パルマ著 宮崎 真紀訳))にも次のようなくだりがでてきた。
いまの望みはもう一度彼女に会うことだけだった。その目的に向かってつき進むのみ。だがそれだけでは足りない。彼女と知りあいになり、本当はどんな女性なのか、どんなお茶が好みなのか、子供時代の最も恐ろしい思い出はなにか、いちばんの望みはなにか、すべて調べるのだ。最終的には、折り鶴を開いてどうすればそういう形になるのかを解き明かすように、たたまれた彼女の心をきれいに広げてしまわなければならない。それが愛なのだろうか? 彼女が私の魂から欠け落ちたかけらなのか?

恋する男の独白的描写なので、書き写していてちょっと恥ずかしくなるというか、ストーカーだぞおい、と思うが、パルマ氏は、人生を折り紙に喩えるのが好きみたいである。

『時の地図』では、表記が「折りヅル」となぜかカタカナになっていて、スペイン語の原著では、「grúa del ppaer」(紙の鶴)などではなく「pajarita」(パハリータ:小鳥の意。スペインの伝承折り紙)だったのではないかとも思ったのだが、今回は「折り鶴」だった。

小説自体はたいへん面白かった。登場人物の多くが、端役にいたるまで、実在の人物であったり、他作家からの引用であったりする作風は、どこか山田風太郎さんに似ている。

「つるの小物入れ」2013/03/03 20:23

つるの小物いれ(河合豊彰さん)
連作形式のミステリ・『思い出探偵』(鏑木蓮著)の第二章・『鶴を折る女』に、以下の記述があった。

「これがそのときの折り鶴です」田村が浩二郎たちの前に置いた鶴は、確かに変わった形をしていた。
 くちばしや尾、羽根の部分は普通の折り鶴なのだが、背中が四角く開いていて、そこが小物入れにになっていたのだ。

 昭和四十年。集団就職で東北から上京した少年。彼は、工場の仲間と諍いをおこして街に飛び出す。路地裏のジャズ喫茶。少年はひとりの少女に親切にされ、おだやかに諭される。たった一回の短い出会い。それから40年余、折りにふれてその女性を思い出す男は、お礼を伝えたい、そのひとを探しだしてほしいと探偵事務所を訪ねる。手がかりは、すこし変わったかたちの折り鶴のみ。というような話である。

 さて。この、背中が小物入れになっている折り鶴だが、これは、河合豊彰さんの「つるの小物入れ」であると見て間違いない。そして、この作品の初出は、保育社カラーブックスの『おりがみ』(復刻版あり)のはずである。ここで「問題」なのは、その出版年が1970年(昭和四十五年)ということだ。つまり、この折り鶴は、1965年には一般には知られていなかったはずなのである。
…と、野暮な「考証」をしてみた。

『太古からの9+2構造 繊毛のふしぎ』2013/03/05 22:25


『太古からの9+2構造 繊毛のふしぎ』から

『太古からの9+2構造 繊毛のふしぎ』(神谷律著)を読んで、繊毛の構造が、2本の微小管を9本の微小管が取り囲んだ「9+2」の構造になっているということを知った。動かない繊毛は「9+0」だという。九角形という、マクロではめったに見かけないかたち(オクラぐらい?)が、生物の基本構造にあるということを知って驚いた。

結晶構造解析の最新の成果によると、次のようなことだという。SAS-6というタンパク質は、二分子撚りあわせるように結合して二量体となり、ふたつの頭部と長い尾部を持ったかたちになる。これらの分子を適当な条件におくと、頭部が別の二量体と結合し、車輪状の構造をつくる。結晶の中では、九回対称のものもあるが、八回対称のもののほうが多いという。「中心子の九回対称性を決めるしくみはSAS-6の性質だけによるものではなく、他の要素にも依存することを示唆している」ということで、今後の研究課題のようである。

以下は、わたしの思いつき。
分子の性質では八回対称にも九回対称にもなるということから、連想したのは次のことだ。正八角形の内角は135度、正九角形の内角は140度、その中間は137.5度である。これは、あれじゃないか。黄金角。一周を黄金比で割ったときの角度の小さいほうの値である。黄金比(1.618...)をφとして、(φ-1)/φ *360 = 137.507...度だ。植物の葉序なんかにでてくる値である。
また、正二十面体の二面角もこの値に近い。180 - 2atan(2-φ)で、138.189...度である。正二十面体と生物学といえば、ウィルスのカプシドの多くは正二十面体の対称性を持っている。これと、9+2構造は関係があったりはしないのだろうか。
正二十面体の二面角≒正九角形の内角

山梨の読書生活など2013/03/07 00:24

ジュンク堂甲府店
某月某日
八ヶ岳山麓に向かう途中、珍しく甲府のジュンク堂に寄った。駅前にきれいな県立図書館がオープンし、岡島デパートのワンフロアがジュンク堂になって、甲府の読書環境はよくなった。ジュンク堂には、上のようなポスターが貼ってあり、おっと思った。

某月某日
京王線のダイヤ改正で「通勤快速」がなくなり、区間急行というものになっていた。

通勤快速と言えば、森村誠一さんの『通勤快速殺人事件』は、クリスティの『オリエント急行殺人事件』のパロディタイトルとして秀逸だった。大陸横断鉄道と満員の通勤電車。巷塵にまみれ、生活感がにじみ出た感じが、実にそれらしい。

読んでいないけれど、最近でた、青崎有吾さんの『体育館の殺人』も、綾辻行人さんの館シリーズがタイトルがネタだろうけれど、スケールの縮まった感じが逆によい味である。折原一さんの『脇本陣殺人事件』というのもあり、これは、わたしも思いついたことがあったので、「やられた」と思った。別に自分では書きもしないのに。

ミステリの本歌取りタイトルには、『Wの悲劇』(クイーン→夏樹静子)『弁護側の証人』(クリスティ→小泉喜美子)『なぜ絵版師に頼まなかったのか』(クリスティ→北森鴻)『鷲は飛び立った』(J.ヒギンズ→これは本人)などもある。

で、『線と面』というのはどうだろう。「線と面」というのは、折り紙のことでもあるが、アリバイを「高次元化」するとどうなるだろうかと。

ある時刻にある場所(点)にいることが証明されるのではなく、ある線上にいることだけが証明できるという設定である。たとえば、GPS衛星が壊れて、経度しか記録がないという状況。容疑者のいた場所も犯罪現場も経度がわかっている。それが離れているために不可能に思われた犯罪であったが、犯行は極付近で行われたので、経度が離れていても移動は簡単なのであった!…しょうもない話だな。

『数学セミナー』連載:『折って楽しむ折り紙セミナー』2013/03/09 17:20

『数学セミナー』4月号(3月12日頃に店頭に並びます)から、『折って楽しむ折り紙セミナー』(前川淳)という連載が始まります。未発表や狭い範囲でしか発表していない幾何立体などの展開図を紹介する折り紙エッセイです。特殊なかたちの用紙形など、パズル的な色合いを前面にしていくつもりです。

『数学セミナー』は、かつて、伏見康治・満枝さんや戸村浩さんの連載があった雑誌で、なんというか、甲子園のマウンドにあがる気分です。

と、告知になると、なぜか「ですます調」になるのでした。