『宙の地図』2013/03/03 01:26

同じ作者の『時の地図』にも「折りヅル」の比喩があったが、続編の『宙の地図』(フェリクス J.パルマ著 宮崎 真紀訳))にも次のようなくだりがでてきた。
いまの望みはもう一度彼女に会うことだけだった。その目的に向かってつき進むのみ。だがそれだけでは足りない。彼女と知りあいになり、本当はどんな女性なのか、どんなお茶が好みなのか、子供時代の最も恐ろしい思い出はなにか、いちばんの望みはなにか、すべて調べるのだ。最終的には、折り鶴を開いてどうすればそういう形になるのかを解き明かすように、たたまれた彼女の心をきれいに広げてしまわなければならない。それが愛なのだろうか? 彼女が私の魂から欠け落ちたかけらなのか?

恋する男の独白的描写なので、書き写していてちょっと恥ずかしくなるというか、ストーカーだぞおい、と思うが、パルマ氏は、人生を折り紙に喩えるのが好きみたいである。

『時の地図』では、表記が「折りヅル」となぜかカタカナになっていて、スペイン語の原著では、「grúa del ppaer」(紙の鶴)などではなく「pajarita」(パハリータ:小鳥の意。スペインの伝承折り紙)だったのではないかとも思ったのだが、今回は「折り鶴」だった。

小説自体はたいへん面白かった。登場人物の多くが、端役にいたるまで、実在の人物であったり、他作家からの引用であったりする作風は、どこか山田風太郎さんに似ている。

「つるの小物入れ」2013/03/03 20:23

つるの小物いれ(河合豊彰さん)
連作形式のミステリ・『思い出探偵』(鏑木蓮著)の第二章・『鶴を折る女』に、以下の記述があった。

「これがそのときの折り鶴です」田村が浩二郎たちの前に置いた鶴は、確かに変わった形をしていた。
 くちばしや尾、羽根の部分は普通の折り鶴なのだが、背中が四角く開いていて、そこが小物入れにになっていたのだ。

 昭和四十年。集団就職で東北から上京した少年。彼は、工場の仲間と諍いをおこして街に飛び出す。路地裏のジャズ喫茶。少年はひとりの少女に親切にされ、おだやかに諭される。たった一回の短い出会い。それから40年余、折りにふれてその女性を思い出す男は、お礼を伝えたい、そのひとを探しだしてほしいと探偵事務所を訪ねる。手がかりは、すこし変わったかたちの折り鶴のみ。というような話である。

 さて。この、背中が小物入れになっている折り鶴だが、これは、河合豊彰さんの「つるの小物入れ」であると見て間違いない。そして、この作品の初出は、保育社カラーブックスの『おりがみ』(復刻版あり)のはずである。ここで「問題」なのは、その出版年が1970年(昭和四十五年)ということだ。つまり、この折り鶴は、1965年には一般には知られていなかったはずなのである。
…と、野暮な「考証」をしてみた。