北の空の黒い幾何学模様 ― 2007/07/15 12:25
「ある秋の夕べ、仕事帰りに小山のうえからその電柱と空気の分水嶺にむかって下りようとしたとき、北の空に、黒い幾何学模様とでもいうべき平らかな物体があらわれた。三角形なのか平行四辺形なのか扇形なのか、先頭の一点に引っ張られて自在にかたちを変化させながらその黒く薄っぺらい布はくるりくるりと向きを変え、ときにはまんなかあたりに引いた線を中心に空の反対側へ折り紙のように自分自身を折って旋回をつづけている。レーダー網をかいくぐるというあのステルス戦闘機か、満月を背景にマントをひろげて飛んでいくバットマンにも似たその物体がどうやら鳥の大群であると認識できたのは、雨水が集まり空気が変わるいつものポイントまで下りてきたときのことで、しかもそこは、彼らがねぐらへむかうまえに使っている集合場所のほぼ真下にあたっていた。」『バン・マリーへの手紙』(堀江敏幸著 2007/05)収録の『ブラック・インパルスのゆくえ』の一節を、長めに引用。堀江さんの文章は長いので引用も長くなる。「その電柱と空気の分水嶺」といった言葉の意味するところは、同書を読んでください。
引用部分はいくぶん不穏な雰囲気を醸しているようにも読めるが、ふっと空いた時間にゆっくり読むのに最適な散文集で、そうした本に「折り紙」を見つけたのには、なんだかとてもうれしくなった。
そして、以前から漠然とあたためてはいるのだけれど、「アナロジー(類比)や比喩としての『折り紙』」なるテーマは、けっこう面白い研究になるかもしれないと、あらためて感じた。面白がってくれそうなひとも5人ぐらいは思い浮かぶ。って5人だけかい。
そうした、いわば文系的な研究とはまったく違って、鳥の群れがかたちづくる秩序は、理系的にも面白い。これに関しては、整列する、凝集する、近づき過ぎない、というたった3つの規則だけでリアルな動きを見せる、クレイグ・レイノルズ氏のコンピュータシミュレーション・Birdoids(あるいはBoids)という研究がよく知られている。
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