和算の「式」2008/08/09 10:30

 最近、すこし詳しく和算を調べているのだが、これの「数式」の記述が面白いので、ちょっと触れておきたい。
 たとえば、甲=乙/((3-√3)/2)は、「置三個 開平方 以減三個 余半之 以除乙 得甲」となる。右からというか、括弧の中から記述するわけだ。
 括弧を使った式は、全体の構造を一覧できる強みがあり、すっかりこれに馴れているが、じっさいの計算の順番には対応しておらず、文章での説明に適したものとは言えない。たとえば、式を読み上げることに並行して計算することはできない。一方、和算の記述は、計算の順序に則した自然なものである。
 この記述は、スタック構造(最後においたものを、一番最初にとり出せる整理棚のようなもの)を使った「逆ポーランド記法」にも似ている。(演算子は必ずしも後述ではないので「逆」と言えないけれど)
 西洋数学・近代数学の式というのは、文章というよりも、構造を一瞥して把握するという意味で「図」なのではないかとも思った。

コメント

_ Joker ― 2008/08/17 13:07

『美の図学』所収の「平面から立体へ」。前川さんの「折り紙は2次元半(フラクタルとは別の意味で)」という記述を思い出して、ときどき考えることがあります。次元をひとつ落として、油絵と水墨画の違いとか。西洋音楽と邦楽の違いとか。
数式は考えたことがなかったのですが、1次元的な言葉に対して、思考は純粋な1次元ではなくて、どこか空間的なところがあるような気がしています。記憶の仕舞ってある場所を検索するような感覚。非常に抽象的ですが、洋の東西の流儀の違いが、数式にも現れていると思うと、非常に興味深いです。

_ maekawa ― 2008/08/18 12:45

 関連して『あなたの人生の物語』(テッド・チャン著)(http://www.amazon.co.jp/dp/4150114587)を連想しました。世界を因果関係によってではなく、変分原理・最小作用の原理によって理解する異星人が登場する、詩的で思索的な大傑作です。彼らの言語は線的ではなく図になっています。

_ Joker ― 2008/08/19 23:12

シンクロニシティ。ちょうど最近森毅『もうろくの詩』を読んで、ニュートンVSライプニッツに興味を抱いていたところでした。同じコインの裏表。数学科出身にも関わらず微積は弱く、変分の方はちゃんと理解していないのですが。

ご紹介いただいた本、きっと読みます。

_ Joker ― 2008/09/14 22:44

『あなたの人生の物語』表題作読みました。前景に出ているSF的な仕掛け以前に「あなた」の子供時代の描写がリアルで感心しました。でも実際、変分原理って何なんだろう。
河合隼雄×中沢新一『仏教が好き!』を読んでいたら、おしまいの科学論の所で「マトリックス=胎蔵界曼陀羅」という説が展開されていました。真に受けると大変なのでアナロジーとして読みますが、「大日如来≠曼陀羅のプログラマ」というあたりを読むと、どうもニュートン的世界観に拮抗する原理が希求されているのではないか。そうするとこれはつまり変分原理のことだなと思って。ますます変分原理が分からなくなってきました(笑)。

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