四面体の鎖など2018/05/01 23:11

この題名で、『紙の動物園』の著者ケン・リュウ氏選なので、折紙者として読まないわけにいかない。表題作(ハオ・ジンファン著、大谷真弓訳、リュウ氏の英訳からの重訳)は、文字通り折り畳まれる北京の話であった。三種類の都市が、毎日、定時に折りたまれて交替する。物理的にどうなっているかは謎だが、奇妙な現実感がある。それぞれの空間は社会的な階層に対応しており、J.G.バラードの巨大高層マンション小説『ハイ・ライズ』をさらに寓話的にしたような設定である。

収録の全編は読んではいないが、中国のSF小説(科幻小説というらしい)が、これから力を持っていくのは、たしかに間違いなさそうだ。そして、中国の存在感の高まりは、SFに限らない。今秋オクスフォードで開催される7OSME(第7回折り紙の科学・数学・教育国際会議)でも中国からの参加が多いらしい。

◆切り紙の飾り・Papel Picado
ピクサーのアニメーション・『リメンバー・ミー』(リー・アンクリッチ監督)を観た。メキシコの死者の日の切り紙飾りが効果的に使われていた。Papel Picadoというらしい(訳すとそのまま「切り紙」)。そうした習俗があること自体を知らなかったが、奥三河の花祭りの「ざぜち」や、越後の「八丁紙」、三陸や櫛形(山梨)の「切子」に似ていて、面白い。Papel Picadoは、調べてみると案外新しいもので、20世紀になってから中国系移民によって持ち込まれた剪紙を起源とするらしい。

下の写真は、東栄町月地区の花祭りの「ざぜち」と「湯蓋 (部分)」である。前も疑問に思って解決していないが、「ざぜち」の語源って何だろう。
花祭りの「ざぜち」(東栄町 月)

◆四面体の鎖
正四面体を辺で鎖にすると面白いかもしれない、と思いついたので、試してみた。6個で輪にすると、きれいにまとまった。ユニット折り紙としては単純なつくりである。
四面体チェーン

この鎖の幾何学的特徴は、直交する三軸方向につなげられることにもある。ただし、辺が直線だと、別方向のものが干渉するので、それをすこし曲げる必要がある。曲げると吊るしたときにも安定するので、ちょうどよい。CGでそれを描いてみたら、なかなか面白い絵になった。このアイデアはすでにあるだろうか。まあ、どういうふうに使うか、わからないけれど。
四面体チェーン(三軸)

この鎖を、じっさいに針金を曲げてつくる場合は、工夫が必要だ。3価頂点が4つあるので針金の一筆描きは不可能である。辺を2回通るようにすると可能になるが、そのようにつくると絡ませるのは難しくなる。
四面体チェーンモジュール

筆竜胆2018/05/07 22:30

◆オープンアトリエ
5月1日から6日まで、来ていただいたみなさま、遠いところを(近所のひとも)ありがとうございました。

◆筆竜胆(フデリンドウ)
筆竜胆
山梨県北部標高1000メートルの周辺では野の花が花盛りだ。タチツボスミレ、タンポポ、マムシグサ、ヘビイチゴ、フデリンドウなど。フデリンドウ(筆竜胆)の中に、五回の回転対称性が際だっているもの(写真左上)があった。ほかの個体はこれほどきっちりした感じではなかった。花の直径は2cm弱である。名前の由来は、朝夕に花が閉じたさまが筆に似ている(写真左下)からだという。よく似たハルリンドウというものもあるが、この写真の花は、フデリンドウでたぶん間違いない。
パラメトリック・フデリンドウ

正四面体の箱など2018/05/12 21:51

◆鳥海太郎展
鳥海太郎展
2018/5/21(月)- 5/16(土)
養清堂画廊(銀座5-5-16)
布施知子さんのご夫君の版画家・鳥海太郎さんの個展です。
写真の作品の題名は「見上げる」

◆正四面体の箱
TetrahedoralBox
蓋とボディが一体化した正四面体の箱ができた。閉じるときの組み合わせが面白い。1対2で近似させてもよいが、1対2.02...という長方形を用いるとぴったり合う。15cm正方形用紙の場合、「ふたつ折り」のときに1.5mmほどずらして折って切るとよい。

この折り目の構造は、正六角形用紙を用いると対称性が高くなる。その場合、閉じると四面体はツインとなる。

◆『北京折畳』と『折畳几何学』
『折る幾何学』の簡体中国語版に関して、翻訳者とすこしとやりとりをした。ついでに、「最近、『折りたたみ北京』(『北京折畳』ハオ・ジンファン)というSF小説を読みました」と書いたところ、翻訳者氏も読んでいて、「現実の北京の地名もでてきて臨場感がある」という話だった。「札幌の地下街に行ったさい、街の下にもうひとつの空の見えない街があることに、あの小説の描写を思い出した」という旨のことも書いてあった。

なお、『折る幾何学』の簡体中国語版の題名も、「折畳」を含む、『折畳几何学』である。(ただし「畳」は異字)。「原題にも『紙』がないので、こうしました」ということだった。

◆数学短歌
『数学セミナー』に投稿した数学短歌が、一首採用された。よかった。

ボツになったものでは、以下が、解説を含めて、ネタとしてある意味自信作だったのだが...
(あくまでインサイド・ジョークとしてウケを狙ったもので、選者の判断にくちばしをはさむものではありません。為念)

題:ベクトル
これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬもベクトルの積
余をこめてTriの空値は図るともよにベクトルの積はゆるさじ

解説:
一首目。「これが、計算結果がもととは違う向きのベクトルになるベクトルの外積というものか。意味はよくわからないが、とりあえず計算方法はわかった」ということをよんだ古歌。作者は、数セミ丸である。

二首目。「余弦定理を用いて、Trigonometric function(三角関数)で、(余弦が)空値(ゼロ)となる向きを計算しろという問題だが、ベクトル内積を使ってはだめなのか?」ということをよんだ古歌。作者は、整数納言である。

二首とも「ベクトル」とある部分が「あふさか」であったという説があるが、それでは意味が通じない。二首目の作者は、筆名から想像できるように、数論の業績で名高く、日本のマリー=ソフィ・ジェルマンとも言われる女性の数学者である。主著における記述「烏の寝所へ行くとて三つ四つ二つなど飛び急ぐさへあはれなり」の3,4,2という数列の意味するところは、現在においても解明されていない。

立方体の二分割など2018/05/25 22:36

明日、5/26(土)22:45-23:00に、NHK-Eテレで第12話が放映される。

明日から、折紙探偵団九州コンベンション(@佐賀大学)に参加する。三枚組みの正八面体を講習予定である。
三枚組の正八面体

◆武蔵野美術大学の案内チラシ
武蔵野美術大の案内チラシ
武蔵野美術大学のオープン・キャンパス(6/9,10)の案内が、なんとなく折り紙的だった。こうした切れ目と折り目の「動き」に注目することは珍しくないが、置く(一見アンバランスに見える状態に)という機能に注目したのははじめて見た。

なお、同大学では、先週、非常勤講師をつとめた。講義では、立体感覚の面白さ難しさを味わうモデルとして、「穴のある包み紙(type 2)」のワークショップなどをおこなった。下の図がその用紙形である。表裏同等構造によって、きれいに閉じた立方体になる。
穴のあいた包み紙 type2

◆立方体の二分割、正四面体の二分割
「穴のある包み紙」に関連して、双曲放物面(図右上)を近似する折り目を、同心正方形蛇腹以外で実現することを考えていて、面白いかたちを見つけた。
立方体の二等分、正八面体の二等分
右・中の図のような折り目をつけて、面角を変えてみる。すべての折り目は連動し、合同の二等辺三角形4面の四面体に内接するように連続的に変形する。ただし、それは、剛体構造ではない。中央の正方形がたわむのである。しかし、それは常にたわんでいるのではなく、平坦になるときもある。外接四面体が正四面体で、かつ中央の正方形が平坦になる折り目のとき、どのような折り目の角度になるか。それは、図に示した直角の1/4を基準とする折り目で近似できる(ぴったりではない)、ということが今回気がついたことである。

この目安は折りやすいので、さっそくこれを用紙の中心に埋め込んだモデルをつくってみた。全体を表裏同等モデルにしても面白いのだが、この折り目が内部に隠れてしまうので、二分割の立体にしたところ、造形的にも面白いものになった。

この折り目は、同じ折り目をさらに中央の正方形に当てはめて、入れ子構造にすることができる。するとそれは、変形で面が歪まない折り目になる。ただし、これは新発見ではない。同心正方形の折り目に対角線を加えるという「舘-ドメインモデル」と同様である。
双曲放物面近似

なお、正方形の折り目の辺は、用紙の辺と平行である必要はない。次の図(左上)はその例だ。これは、中心の正方形が平坦なとき、ねじり折りした三角形の面どうしが同一面になるように決めたものだ。
オリガミ椅子
この折り目をすこし折り変えると、きれいな椅子のかたちになる。それは剛体折りなので、ヒンジと板でできる「折り畳み椅子」になる。ただし、平坦になるほうに力が働くことがあるので、これに対するためには、脚部を鎖でつなぐといった方法を適用しなければならない。それを外すと畳めるわけである。まあでも、踏み台に使うにはやや怖い構造だ。

◆三角柱箱
三角柱箱
先日の正四面体の箱の姉妹モデルとして、正方形用紙から正三角柱の箱を考えた。チーズっぽくてよい。三角形の1辺を1とすると、高さは√3/3なので、体積はぴったり1/4である。きっちり閉じる構造にしたため、開けるのはすこし難しくなった。

137など2018/05/28 23:45

◆方ツムリ(カタツムリ)
方ツムリ(カタツムリ)
九州コンベンションのとき、ベス・ジョンソンさん、川村みゆきさんらに、「反四角柱」の面白い展開図(飯野玲さん案)を紹介した。さきほど、この展開図をいじっていて、立方体状の殻のカタツムリ、名づけて、「方ツムリ」なんてものができた。裏がけっこうよい感じだ。
なお、反四角柱は、別のシンプルなアイデアも最近生まれた。いかにも前例がありそうなのだが、昨日の講習で、オマケモデルとしても紹介した。これらは、あらためてどこかで紹介したいと思っている。飯野さんモデルの工程も考えた。

◆辺の5等分の近似
1/5の近似
直角の8等分から、正方形の辺の5等分(近似)をつくるジョンソンさんの方法は初めて見た。
tan(90/8)=0.1989...≒0.2ということである。15cm用紙で、0.2mm以下の精度だ。
1:2:√5の直角三角形を使う、近似ではない方法があるので、あまり別の方法を考えたことはなかったのである。

◆137
今朝、観測所の玄関に示されていた昨日の見学者数が137人だった。微細構造定数の逆数がほぼこの値で、ウォルフガング・パウリが数秘術的にこだわった素数である。何年か前、『137 - 物理学者パウリの錬金術・数秘術・ユング心理学をめぐる生涯-』(アーサー・I・ミラー、阪本芳久訳)という本も翻訳され、面白く読んだ。ずっと昔、『自然現象と心の構造―非因果的連関の原理』(ユング、パウリ共著、河合隼雄訳)も読んだが、これは、当時も眉に唾をつけて読んだ記憶がある。

そして、今日、きれいな数字のならびの素数を見つけたのだが、これは、また別の機会に。

◆引用したくなる言葉
最悪ではない。「これは最悪だ」と言えている限り。 (『リア王』4幕)

ナチスが台頭しはじめたころ、オーストリアの批評家・カール・クラウスもこの言葉を引用し、エピグラフにしたという。(池内紀『カール・クラウス』) 

これは、捨てぜりふとはすこし違うニュアンスの言葉である。リア王の重臣であるグロスター、その息子エドガーは、父に濡れ衣を着せられ、狂人を偽って逃走する。彼が、盲目となった父に遭遇したときにもらしたのが、この言葉である。彼は、狂人を装ったまま父を救う。これは、なんというか、歯を喰いしばるための言葉なのである。劇の最後、エドガーはこんなことも言う。

この悲しい時代の積は、わたしたちが負わなければならない。思ったことを話そう。強いられて言うのではなく。