さらば昴よ2016/12/13 20:01

昨日、ラジオから谷村新司氏の「昴」から流れてきた。有名な歌だが、わたし自身、聞いたのは久しぶりで、「我は行く。さらば昴よ」という歌詞の「さらば」はどういう意味なのだろうと、ふと疑問にかられた。

★たとえば、「南極に行く」という解釈が可能である。すばる(プレアデス星団)は、赤緯(天体の座標で、天の北極が90、赤道が0)が約24度なので、90度からこれを引いた値の南緯66度以上の地に行くと、見ることができない。南緯66度以上にある土地と言えば、南極大陸である。つまりこれは、南極観測隊員の決意の歌だったのだ。すばるの赤緯が地軸の傾きにほぼ等しいのも興味深い偶然である。南緯66度というのは白夜になる境界に相当する。つまり、「昴とさよならした土地」は、季節によっては、一日中星空そのものが見えない土地でもある。
「タロー!ジロー! さらば、昴よ〜♪」

★すばるは、黄道(太陽の1年の通り道)の近くにある星である。5月の約1ヶ月間は、ほとんど太陽と重なって、日没の直後や日の出の直前であっても、太陽にかき消されて見えない。つまり、「さらば 昴よ」は、「ああ、5月だなあ」という意味でもある。
「夏も近づく八十八夜♪ さらば、昴よ〜♪」

★町で見上げた星空では、すばるの特徴、すなわち、多数の星が集まっている散開星団であることがわからない、ということもある。すばるの中で最も明るいアルキオネ(η Tau)は2.87等級であり、それ以外はみな3等級以上である。空の明るい東京では、条件がよい日でも、肉眼で確認できる星は3等級がぎりぎりぐらいなので、すばるは、薄暗いぼやっとしたものと認識することがせいぜいで、ほぼ見えない。つまりこの歌は、地方から都会にでていくひとの歌である。
「恋人よ僕は旅立つ〜♪ さらば、昴よ〜♪」

★明治末、文芸誌『スバル』(集英社の『すばる』とは異なる)の創刊に関わった石川啄木が、次第にそこから離れていったという話とも符合する。『スバル』の最終号より啄木の物故のほうが前になるので、「我は逝く」ということでもある。なお、谷村氏は、「呼吸(いき)をすれば、胸の中」のところ、啄木から、本歌取りというか、明白な引用をしている。
「呼吸(いき)すれば、胸の中(うち)にて鳴る音あり。凩よりもさびしきその音! さらばスバルよ」

★富士重工業の社員が、他社にヘッドハンティングされたときの感慨を歌った歌としてもぴったりだ。あるいは、富士重工業の車のユーザが他社に乗り換えたとか、運転者が高齢となって免許を返上して車も売ったということかもしれない。
「崖の上のスバル〜♪ さらば、スバルよ〜♪」

★身近なところで、国立天文台ハワイ観測所(すばる望遠鏡)での任期が終わって、他の観測所などに異動になった国立天文台職員の感慨でもある。
「いざ、その星影、窮めも行かむ♪ さらば、すばるよ〜♪」

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