「腰折れ」の話など2016/09/15 23:57

◆長いオープン戦
阪神タイガースというチームは、半年間、オープン戦を続けているのであった。

◆回文
某日、北條高史氏との会話。
前「タイガースの北條内野手の背番号の上の表記が回文になっているんだよ。HOJOHって」
北「なるほど。新庄のじょーはJYOでしたね」
前「北條さんは、折り紙ではHOJYOとしているけれど、ほかはどうしているの?」
北「論文の表記は、違っています」

そう言えば、カワサキさんに子供ができたとき、カワサキサワカというのはどう?と言ったことがある。即座に却下された。

◆『あなたの人生の物語』
テッド・チャン氏の傑作『あなたの人生の物語』が映画化されて、来年日本でも公開とのことである。
映画の原題は『Arrival』で、邦題は『メッセージ』だそうだ。『Story of Your Life(あなたの人生の物語)』は、シンプルな言葉による詩趣がすばらしいのだが、それを使っていないのは、異星人とのファーストコンタクトのサスペンスに演出の重点がおかれるからだろうか。

ファーストコンタクトもののサスペンスを暗示させつつ、原作のアイデアも示した、『Variational Approach』(変分的な手法/様々な申し出)なんてのはどうだろう、などと勝手に考えてみた。いやいや、数理用語を意味深に見せるというのは危ういな。一気に、『「知」の欺瞞』の批判対象ぽく、うさんくさくなる。

◆ジェネラル・ナンセンス
『「知」の欺瞞』の原題は『ファッショナブル・ナンセンス(Fashionable Nonsense)』だけれど、数学界にはジェネラル・ナンセンスなる言葉があるということを、最近知った。
ジェネラル・ナンセンス general nonsense
 数学の学問として性格上,ある数学理論を構築するときに,矛盾さえ生じなければ他には何ら制限を受けることはない.しかし,それが数学として広く受け入れられるには,少なくとも,「動機づけが自然なこと」,「豊富な例を含むこと」,「審美眼に耐えること」が必要である.例えば,これらの条件を満たさず,ただ既知の理論を「一般化」しただけというときには,その理論をジェネラル・ナンセンスであるという。「意味深い数学を始める前の形式的枠組」という,必ずしも否定的でない意味で使われることもある.(『岩波 数学入門辞典』)

一般化だけで面白くないというのは、折り紙やパズルでもあるなあ。
しかし、カッコの多い文章である。「審美眼」とか、定義できないからなあ。

◆腰折れ
専門用語の英訳和訳の話では、むかし、折り紙の国際会議で、同時通訳に関して、事前の用語チェックを担当することになり、buckling→「腰折れ」を「座屈」に訂正したことがあった。「腰折れ」って、変な言葉だなあと思ったが、「座屈」の意味で使われることはあるようだ。

そして、最近よく耳にする「腰折れ」は、経済に関しての言葉である。「景気の腰折れ」というやつだ。これは、相撲用語の「腰砕け」から来たのではないかと踏んでいたが、辞書(『大辞林』)をひくと、「腰折れ歌」「腰折れ文」というものがあった。前者は、和歌の第三句と第四句のつながりが悪いもののことで、後者はそこからの派生と思われる。和歌は、初句から、頭、胸、腰ときて、第四・五句が尾なのだそうだ。脚がないということは、和歌というのは幽霊なのかもしれない。

また、途中で角度の変わる切妻屋根を「腰折れ屋根」という。これは、以前、折り紙の「家」をいろいろつくっているときに知った。北海道などの大規模農地の倉庫によくある、将棋の駒みたいな断面になる屋根である。

これも以前のことだが、折り紙に関係ありそうな場所を訪れる『折り紙散歩』というエッセイシリーズ(『折紙探偵団』にかつて掲載)のネタになるかと、愛媛県の腰折山に目をつけたこともある。さきほど、Google ストリートビューで見たら、登るのもそんなに大変そうじゃないし、俄然行きたくなってしまった。恵良(エリョウ)山と並んで、ケルビン・ヘルムホルツ波(先端が螺旋状になるノコギリの歯のような波)みたいなかたちが面白い。

『涙香迷宮』2016/09/27 23:48

法月綸太郎さんの『挑戦者たち』にあった、いろは48文字の「読者への挑戦状」も面白い趣向だったが、「新いろは歌」を扱ったとんでもないミステリ『涙香迷宮』(竹本健治)が出ていることを知って読んだ。刊行から半年も経っていたのに、認識していなかったのは不覚だった。
作中には、「ん」を含む48文字からつくられた、50もの新いろは歌が出てくる。驚くべき技巧作品もある。作中では黒岩涙香の作ということになっているが、つまりは竹本さんの作だ。呆れるほどの好事家ぶりである。

刺激をうけて、折り紙をテーマにして、ひとつつくってみた。ミステリの読書において、謎や展開より気になることができて、読むのを中断して、「関連問題」を何時間も考えたことなど、ほとんど記憶がない。
をりかみいろは歌(「いぬと」歌)

いぬとつるかめ ほふねみえ
ちひさきむすこ をりあそへ
しろくれなゐの うらおもて
やまたにわけよ はせんゆゑ

犬と鶴亀 帆舟見え
小さき息子 折り遊べ
白紅の 裏表
山谷分けよ 破線故

4行目は、破線が谷折りで鎖線が山折りという、折り紙業界の内輪ネタである。天文ネタは、竹本さんがすでにやってるので、二番煎じになってしまうのであった。

一番苦労したのは仮名遣いだ。できたと思っても仮名遣いの間違いに気づいて、その一角から全体が崩れ去ることが数回あって、時間がかかった。上のものは合っているはずだが、三重は「みへ」で、「見え」は「みえ」、笑みは「ゑみ」など、難しい。

考案過程は、あちらを出したらこちらをへこませるという、エッシャー風の敷き詰め絵(テセレーション)を描いているときの感覚に似ていた。