帰国便のヒースロー空港で、ゲート番号が42であった。そして、往きのシート番号が42だった。42は、日本では縁起の悪い数字だが、ブリティッシュ・ジョーク的には、最高の数字だ。
7OSMEでも関連した話があった。幾何作図セッション、ホルヘ・ルセロさんの「3次元ユークリッド空間の折り畳み」という話で、3次元空間を「折り面」で「折る」操作が50種になるという内容があり、そのさい、(聴き間違いでなければ)「42でないのが惜しい」というコメントがあったのだ。「あのネタ」として間違いないが、ちょっとわかりにくい。誰もがぽかんとしている感じだった。これは、おふざけSFの傑作
『銀河ヒッチハイク・ガイド』(ダグラス・アダムス)にある、「生命、宇宙、そして万物にたいする究極の疑問の回答」が「42」であるというネタであろう。イギリスだし。
わたしのイギリス旅行も、銀河ヒッチハイクガイドに祝福されていたのであった。最近翻訳の出たアダムスさんの
『長く暗い魂のティータイム』(安原和見訳)では、ヒースロー空港が爆破されていたけれどね。
◆ブラックウェル書店、そして『文字渦』
日曜日、7OSMEとBOSコンベンションのすべての日程が終わったあと、オクスフォード市内を散歩し、書店を何軒かはしごした。古書も扱っている店には、留学生か研究者の置き土産なのか、日本語の本もあって、興味深いものがあったが、中でも、世界的に有名な書店・ブラックウェルのたたずまいは雰囲気満点だった。地上の入り口からは想像のつかない広大な地下の空間に、本が満ちている。日曜日は17:00に閉まってしまったので、帰国日の朝もスーツケースをひきながら寄って、小一時間過ごし、使う本、読む本というより、
『オクスフォード数学辞典』と、ワイルの
『シンメトリー』とアボットの
『フラット・ワールド』のペーパーバックを、お土産に買ってしまった。で、『オクスフォード数学辞典』と『Origami ^7』で記念写真。
いまどき紙の本なんてと思うひとも多いと思うが、旅行の飛行機や列車で紙の本を読むのを楽しみにしていて、やっぱりなぜか紙の本がよいというひとも多いのではないか。今回のわたしも、荷物になるのに、とか言われながら、日本からも、会に関係ない本を3冊持っていって読んだ。
帰りの飛行機の中で読んだのが、円城塔さんの
『文字渦』である。全編、手のこんだ冗談のような話のひねくれ具合がよくて、紙の本ならではの読書のたのしみにもあふれていた。さまざまな「情報」が詰め込まれているので、それをあれこれ考えるのもたのしそうだ。なお、次の箇所はちょっと気になった。
いわゆるプラトン立体である。ここで、六面体の角を綺麗に落としてやると八面体に、十二面体の角を綺麗に落としてやると二十面体となり、逆も成り立ったりして興味深い。(略)ちなみに、四面体の角を綺麗に落とすとまた四面体が現れて、自分自身で循環している。
正多面体の双対関係を述べており、間違いではない。しかし、プラトン立体をおぼろ気にしか知らないようなひとに説明する直感的な表現としてはややわかりにくい。正多面体の双対関係を直感的に示すなら、「角を落とす」より、「面の中心を結ぶ」にしたほうがよい。
たとえば、「六面体の角を綺麗に落とす」と言ったとき、多くのひとは、図下・左のような切断面(円で表示)を思い描くはずである。小説を読んでいて、幾何図形を確認するひとは少ないだろうけれど、思い描いたとすれば、このような図ではないだろうか。
しかし、この図でできるのは、正八面体ではなく、立方八面体、つまり、立方体と正八面体をミックスしたようなかたちである。正二十面体、正十二面体でも同じで、「綺麗に角を落とす」と、立方八面体と同様、準正多面体の二十・十二面体になる。正四面体も同様で、辺の中点までで切り落とすと、正八面体になる。
「間違いでない」というのは、図下・右のように、切り落とす面を中心に近づけて交差するようにして切れば、面の中心を結ぶのと同じことになるからだ。しかし、この図を想像するのは、かなりのマニアである(なんのマニアだ)。
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