『旅する小舟』など2021/12/30 15:59

◆眼のなき魚
一年ぐらい前、石川美南さんの折り紙を詠んだ短歌から、牧水の「眼のなき魚」の歌、夢野久作の歌、立原道造の掌編小説を連想し、このブログで触れた

先日、歳時記をめくっていて次の句に遭遇した。

年暮るる目のなき魚の如く生き 稲垣きくの

作者は、戦前の無声映画などで活躍した女優で、かつ俳人でもあったひとだという。この句もまた、牧水の歌に想をとったものなのだろう。一年ひっそりと生きたという詠懐である。年の暮の句では、其角の句も思い浮かぶ。

行く年や壁に恥ぢたる覚書 其角

いかにも其角という句だ。彼は、皮肉な眼でその風景を詠んだだけで、自身は恥じてなどいないのだろうが、わたし自身は、覚書こそ貼り出していないが、今年も、片付けるべきことが終わらなかったなあ、と、行く年に悔いの心をのこしてしまった。

◆『旅する小舟』
『旅する小舟』
題名以外に文字のない絵本『旅する小舟』(ペーター・ヴァン・デン・エンデ)は、折り紙の小舟が世界中を旅する物語だ。帯に推薦文を寄せているショーン・タン氏の『アライバル』にも折り紙が出てきたが、この本では折り紙の小舟が主人公である。細い線で緻密に描かれたモノクロの絵の世界が魔術的だ。

『旅する小舟』

冒頭、謎の人物(ひとりは悪魔風)が舟を折るシーンがある。
『旅する小舟』冒頭

『旅する小舟』では、中心の三角形がすこし鋭角にとびだして描かれているが、この舟は、『じてんしゃにのるひとまねこざる』(H・A・レイ作、光吉夏弥訳)で、おさるのジョージが新聞紙で折る舟と同じだ。欧米の伝承折り紙で、わたしが一番最初に覚えた折り紙かもしれない。この絵本の図の正確さと美しさは、いま見てもすばらしい。
『じてんしゃにのるひとまねこざる』

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
スパム対策:このブログの作者は?(漢字。姓名の間に空白なし)

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://origami.asablo.jp/blog/2021/12/30/9451989/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。