まいまいず井戸 ― 2017/04/24 21:48
日曜日、府中市郷土の森博物館の学芸員の佐藤智敬さんの誘いで、府中市郷土の森で折り紙教室の講師を担当した。以前、同博物館の「お稲荷さんの世界」展を観に行ったさいにできたちょっとしたつながりである。学芸員というのは、研究者でもあるわけだが、いろいろとアンテナを張って、幅広く頑張っているなあと感心する(某大臣の難癖とは違って)。
府中市郷土の森は、博物館の建物内だけではなく、野外の展示もある。私的な見どころとしては、「まいまいず井戸」の復元がある。らせん好き(ってなんだかよくわからない属性だが)なら見逃せない物件である。「まいまい(ず)」はカタツムリのことで、井戸に向かう道が、らせん状になっているのだ。
郷土の森のこの井戸は、府中市内の別の場所で見つかったものを復元したものだが、本物としては、羽村市の駅前に、昭和30年代まで現役だったものがあり、これも、以前見にいったことがある。そこにある案内板には、「鑿井技術の未発達の時代に筒状井戸の掘りにくい砂礫層の井戸を設ける必要から、このような形態をとるにいたった」とあった。
この形態の井戸を指すとものとして、「ほりかねの井」という言葉もある。歌枕として、埼玉県入間市の堀兼神社の境内にある井戸のことだが、そもそもは「掘り難い」の意味で、武蔵の国周辺に多いこの井戸のかたちを指す言葉であるともされる。三十六歌仙のひとりである伊勢の読んだ以下の歌が、一番古いらしい。
いかてかと思ふ心は堀かねの井よりも猶そ深さまされる
上に「らせん好き」と書いた。別のところにも書いたことがあるが、らせんということばはけっこうややこしい。螺旋と螺線で、DNA的な「弦巻線」と、蚊取り線香的な「渦巻線」を区別することもあるのだが、かならずしも一般的ではない。そして、この井戸の道のかたちは、弦巻線とも渦巻線ともすこし違ったconical helix(円錐弦巻線)である。弦巻線が、円柱にそったものであるのに対して、これは円錐にそっている。弦巻線と渦巻線の双方の特徴を持ったかたちとも言えなくもない。
まいまいず井戸的なものといえば、野辺山宇宙電波観測所の展示室にあるブラックホールの玩具の、ボールの軌道もそうだ。この曲面は円錐ではなく、Flamm's Paraboloidと呼ばれる曲面だが、ボールのたどる軌道は、まいまいず井戸的である。
というわけで思いついた、伊勢の歌の現代物理学版が以下である。
いかでかと思う心は重力の井よりもなおぞ深さ勝れる
どうしてだろうと思う心は、重力井戸より深い。
なんか、かっこよいではないか。ちなみに「重力井戸」という用語は、物理学や天文学の用語というよりは、SF用語的なものだが、じっさいにある言葉だ。
そう言えば、先日読んだ『麗しのオルタンス』や、読み始めた
『誘拐されたオルタンス』(ジャック・ルーボー著、高橋啓訳)に登場する、架空の国「ポルデヴィア」には、らせん崇拝があり、カタツムリが重要な動物とされているのであった。この国の井戸は、まいまいず井戸が相応しいだろう。
6月25日と7月23日に講師を担当する予定です。詳細は、このブログでもおしらせします。
情報ありがとうございます!
すみません、名前がそのまま表示されると思わず、フルネームを入れてしまいました。名字だけする方法、編集方法はありますか?
変更はできないので、前のコメントを非表示(消したのではない)にしておきました。
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