汎銀河ウガイ薬バクダン2010/12/04 11:47

 辺境探検作家・高野秀行さんが、ブログで絶賛していた『銀河ヒッチハイク・ガイド』(ダクラス・アダムス著 安原和見訳)を読んだ。以前から古典的名作という世評の高さは聞いていて、「バカSFの歴史に燦然と光り輝く超弩級の大傑作」(大森望氏)との評まである。

 なるほど、最高にくだらなかった。数ページに1回はツボがある。コンピュータの名前だけで笑える小説なんてほかにはないだろう。グレート・ハイパーロビック・オムニコグネート・ニュートロン・ラングラーときたもんだ。むやみにおおげさで、その実、無意味。あはは。安原さんの訳では、「大超脳葉全知中性子雄弁者」に「グレート...」の仮名がふってある。HyperlobicはHyperbolic(双曲線の、誇張された)の誤植かとも思ったが、造語のようだ。造語だろうと誤植だろうとあんまり変わりないけれど、私的な訳も考えてみた。「大超越葉状万物同系ニュートロン折伏機」なんてどう?

 グーゴルプレックス・スター・シンカーなんてのもでてくる。こちらの私的訳は「溝倍無量大数乗冪 星界思索機」。1Googolplex=10の(1溝×1無量大数)乗という計算に誤りはないはずである。(こんなところで検算してなんになる)

 銀河最強の酒、パン・ギャラクティック・ガーグル・ブラスター(汎銀河ガラガラドッカン:旧訳(風見潤訳)では「汎銀河ウガイ薬バクダン」とのこと)なるものもでてきて、これからも連想が広がった。森見登美彦さんの小説に登場する謎のリキュール「偽電気ブラン」も思い浮かべたが、より以上に記憶が呼び覚まされたのは、ずいぶん前のアメリカのレストランでの会食でのことだった。ひとりのイギリス人(たしか)が、ルートビアに関して話していた。

 ルートビアというのは、ビールではなく、アメリカ国外では入手困難な炭酸清涼飲料である。オーストラリアのベジマイト(やたらに塩辛いパン用のペースト)、(東)日本の納豆のような、特定の地域でのみ大量消費される食品の代表だ。そのひとは、次のように断言していた。

「あれは、咳止めシロップの味がするね」
その後わたしも飲んだが、じっさいそんな味であった。そして、彼は言っていた。
「だけど、わたしは好きだ。そうだ。ほら、日本にも変なのがあるでしょう?ポカ汗とかいうやつ。飲料に『汗』がつくのはびっくりだね」
「ポカリスウェット?」
「そう、それ! あれも好きだなあ。日本での想い出だ」

 ということを思い出して、「汎銀河ウガイ薬バクダン」には、ルートビアへのイギリス的揶揄がひそんでいる、とも思ったのである。

 なんてことをいま書いているわたしは、数日前から喉が荒れている。ドラッグストアで喉スプレー薬を買ってきて使っているが、さわやなミント味で、もっとなつかしいヨウ素の味のするやつにしておけばよかったと、ちょっと後悔している。