あやめなど2020/04/08 22:35

◆ユニット折り紙でもソーシャル・ディスタンス
Social distance of modular origami
『折紙探偵団』の最新号に載ったユニット折り紙作品は「犇犇薗部」(ひしひしそのべ:Jam-packed Sonobe)というものだが、時節柄、ひしめいていてはまずいので、ソーシャル・ディスタンスを取らせてみた。ついでに、悪魔を封印した(『折紙探偵団』56号表紙、1999)の写真もおいて、病魔退散を祈念することにしよう。
『折り紙探偵団』56号

◆あやめ
ステイ・アット・ホームのみなさまに図を提供します。正方形から三弁の花を折るトリッキーなところが気にいっている作品です。入手可能な書籍には載っていないものです。
あやめ1

あやめ2


あやめ3

あやめ4

オンライン例会(日本折紙学会)など2020/04/12 21:21

◆オンライン例会(日本折紙学会)
4/18(土) 14:00-17:00、日本折紙学会が「オンライン例会」を企画しました。
そこで講師をします。 日本折紙学会のおしらせ

「双子のライオン堂」という本屋さんが出している、近日(4月27日)刊行の文芸誌『しししし』の3号に、ひょんなことからエッセイを書いた。折り紙とは関係のない文章で、サリンジャーについてである。

◆数学の魔術師去る
Mathematician (数学者)ならぬ、Mathemagician(数学の魔術師)こと、ジョン・ホートン・コンウェイさんが、新型肺炎で亡くなったというニュースがあった。うーん。高齢ではあったけれど。

たとえば、昨年、若き数学者を扱った小説、岩井圭也さんの『永遠についての証明』を読んだときにも、コンウェイさんを連想した。数学者が登場人物になる小説では、才能はギフトでもあるが呪いでもあるというテーマが王道だ。同書には「お前みたいな才能が手に入るんなら、なんだってする」というセリフも出てきて、登場人物の瞭司くんは、そういう「呪い」を受けた人物として描かれる。しかし、作中にムーンシャイン理論がでてきたことからの連想だが、ムーンシャイン予想を考えたコンウェイさんに会っていれば、瞭司くんも、もっと幸せになれたかもしれない、などと、わたしは思ったのだ。天才・コンウェイさんは、深さに触れながら、命がけの緊張の中にいるのではなく、戯れるようにたのしそうで、そのたのしさを広く伝えたいと考えているひとだった。数学好きのイベントで遠くから見たことがあるだけだったけれど、そういうオーラがあった。だいたい、数学の予想の名前がムーンシャイン(月の光、たわ言、密造酒)なのである。ふざけている。そういう、こころを軽くしてくれる天才もどこかにちゃんといるのが、この世界のありがたさなのだが…

◆読書に逃避
このパンデミックの中、人口密集地での通勤がなく、生活圏の半分が僻地で、リモート作業の環境もあるというわたしは、きわめて恵まれている。緊迫感がまだ薄い2ヶ月前に参加した会合でも、異なる集団をつなぐハブになる恐れもあることから、若干浮いているぐらいに用心深い態度を取ったが、そのような振るまいができたこと自体、つまりは、恵まれていたからである、といまになって思う。

読書に逃避できるのも恵まれているからである。しかし、これは習い性となっているので、どうしようもない。たとえば、『ドゥームズデイ・ブック』(コニー・ウィリス著、大森望訳)を25年ぶりに再読した。黒死病が猖獗を極める14世紀のイングランドにタイムトラベルした学生と、彼女を過去に送った21世紀側でも未知のウィルスが広まる、という話だ。EC(EUではない)離脱運動や、わずか1.5Gbの音声レコーダなど、近未来を書くのは難しいとも思ったが、2054年でもトイレットペーパーを心配するのはリアルであった。

「疫病がやってくると聞いた人たちはみんな逃げ出した。それでペストが広がったんだよ」
『ドゥームズデイ・ブック』からコリン少年のせりふ)

ポオの『ペスト王』『赤死病の仮面』、梶井基次郎の『のんきな患者』も読み返した。さらに、手にとってぱらぱらめくったのは、『異星人の郷』(マイケル・フリン)、『ホットゾーン』(リチャード・プレストン)などである。『復活の日』(小松左京)と『ペスト』(カミュ)は、手元になかった。

風ひかぬ魘(まじない)2020/04/18 20:39

日本折紙学会のオンライン例会で講師を担当した。まずはやってみようということだが、会の関係者には有能なひとが多いので、とてもたのもしい。

オンライン例会・講習作品
講習作品は「(ちょっとかっこいい)兜」と「折り紙作品を飾る台」という、シンプルな作品とした。「兜」は、中央の「鍬形台」のかたちにバリエーションがあって、正八角形の半分になっているもの(左)は、下に折り返すと、顔のガードである「面頬(めんぽお)」みたいにもなる。「台」は、ネコが乗っているもので、きっちりした角錐台である。

写真の後ろに置いた絵は、『北斎漫画三編』(青幻社の文庫版より)から、鍾馗と疫神である。五月人形で知られる鍾馗は、病魔退散の神でもある。なぜ端午の節句に、鍾馗や兜が関わるようになったのかは、調べるといろいろ興味深い。

江戸末期の考証随筆『嬉遊笑覧』にも「鍾馗画、風神送り」の項があり、「風ひかぬ魘(まじない)に鍾馗の画像を用ること」という記述にはじまり、『東海談』(大田南畝編)から以下の文章が引用されている。

享保十八年七月上旬より、東都に疫癘(えきれい)行り、上下貴賎みな此気に中(あた)りて病(やむ)。十三・十四日の頃、大路往来もたえだえ也。これは医書のいはゆる天行時疫といふものか。邑里(ゆうり)ともに藁にて疫神の形を作り、かね太鼓をならして是を送り、南海に流しぬ。官もゆるして咎めず。是(これ)戯(たわむれ)なりといへども、又三代の遺風なりと思はる

「天行」も「時疫」も、いまでいう感染症のことである。これは、1733年、数年前にヨーロッパで流行したインフルエンザが日本にも上陸したことを記したものだ。この年、江戸では1ヶ月に8万人のひとが死んだという。そして、隅田川の花火は、この年から死者を弔う施餓鬼として始まったのだそうだ。現在の世界もたいへんな状態だが、ご先祖さまも同様のことを生き延びてきたのである。関連する話として、次号『折紙探偵団』の連載コラムに、「ユニット折り紙は感染症を避けるおまじないの伝統につながって…いなくもない」という話を書いた。

ユニット折り紙もソーシャル・ディスタンス(その2)
ソーシャル・ディスタンスをとるユニット折り紙(作品:犇犇薗部(ひしひしそのべ))のCGその2も載せておく。

Unfolding the Mystery of √22020/04/20 21:28

4月11日に新型コロナウィルス感染症で亡くなった、天才数学者・ジョン・ホートン・コンウェイさんについては、4月12日の書き込みでも触れたが、彼が、リチャード・K・ガイさんと共に書いた『数の本』(『The Book of Numbers』1996、根上生也訳)という、数学のたのしさを伝える本がある。(なお、なんと、ガイさんも、今年の3月9日に、103歳で亡くなっていた。新型コロナではないけれど)
『数の本』

この本では、√2という数が無理数であることの説明に、折り紙が使われている。
(これを知ったのは、『本格折り紙√2』を書いたあとだったので、同書では触れることができなかったのはすこし残念であった)。

正方形の辺と対角線の比率が、12対17という整数比だとする。これを図の右のように折る。すると、ちいさな直角二等辺三角形が現れる。これの短辺と長辺の比率も同じになるはずだが、そうすると、17/12 = 7/5ということになってしまう。
同様に、別の整数aとbをおいても、異なる整数の比で表せることになって矛盾が生じる。これはつまり、整数比では表せない比率なのである、という話だ。きっちりとした証明にするには、さらなる工夫が必要だが、ほかで見たことがない説明が面白く、折り紙をつかっていることがうれしかった。

ちなみに、根上さんの訳文では「折り紙を使って説明できます」となっているが、残念ながら、原文には「Origami」という単語はなく、直訳すれば、「√2の無理数性は、正方形の折り畳みで示すことができます」という記述であった。いっぽう、図7.3のキャプション「√2の謎を解き明かす」の原文は、「Unfolding the mystery of √2」となっていて、「明らかにする」と「展開する」という意味のあるunfoldingという言葉を使っているのが洒落ている。

また、この直後にでてくる、「整数の平方根が整数にならなければ、それは有理数ではない」、つまり、整数の平方根には整数と無理数しかない、という命題も、わたしには目からウロコだった。