ブルームーン2010/04/03 01:22

 飛行機内の読書は、旅のたのしみのひとつだ。往路は読書灯が壊れていたので、iPodを照明にして読むという技も使った。それほどまでにして読みたいか。読みたいのである。長旅の飛行機内で本を読むというのは、わたしにとって、こうじゃなければいけないという定番の楽しみなのだ。iPod Touchのi文庫という読書ソフトウェアにも読んでない本がはいっているのだけれど、ページをめくって本を読むという、決まった楽しみをこなしたいのである。

 旅の友になった本のひとつが、『シンメトリーの地図帳』(マーカス・デュ・ソートイ著 冨永星訳)というでたばかりの本だったが、これは、まさに今回の会議に合わせたような本だった。対称性研究と群論の歴史を書いた縦書きの数学物語なのだが、「メインキャスト」のひとりが、今回の会議参加者のビッグネームのひとり・ジョン・コンウェイさんなのである。数学者に生まれついた数学者。単なるMathematician(数学者)ではなく、Mathemagician(数学の手品師)と呼ばれるひとである。じっさいに手品もするそうで、今回は見ることはできなかったが、この本にも、手品で「折り紙の蛙」を出すエピソードが載っていた。
 そのコンウェイさんの考えた、ムーンシャイン予想なるものがある。(この予想は、コンウェイさんの弟子のリチャード・ボーチャーズさんにより証明された。フィールズ賞受賞である) フェルマーの最終定理でも知られるモジュラー関数と、群論のモンスター群との不思議な関係を示すもの、と書いていてもよくわからないが、そういうものである。ムーンシャインというのは、月光というだけではなく、幻とか、はったりとか、密造酒という意味があり、ここにもコンウェイさんの茶目っ気がでている。

 というような内容を機内で読んでいたのだが、ムーンシャインといえば、前の晩がみごとな満月だった。しかも、ひと月二回目の満月、いわゆる「ブルームーン」であった。
 その前の晩には、こんな会話があった。「満月ですね」 わたし「今はたぶん月齢13ちょっとぐらいです。明日の晩が満月ですね」
 などと応えるぐらい、わたしは月齢をけっこう普段から気にしているたちなのだが、太陽暦の月の2回目の満月に、ブルームーンなんていう呼び名あることは、日本から参加していた、ゲーム作家・パズル作家のいわいまさかさんから聞いて初めて知った。概算すると、4・5年に1回ぐらいで、けっこうめずらしい。

 そして、なぜかそのとき思い出さず、いま、あっと思ったのだが、前日、ステーキハウスで飲んだビールの銘柄が、いま思うと「ブルームーン」だった。飲んだことのないものにしようと、メニューから選んだものがそれだったのである。グラスにオレンジをつけることが決まりらしい甘いビールである。

 帰国が遅れたことで、異国で見上げたブルームーン。そして、ブルームーンビールと、ムーンシャイン予想。なんというか、話がつながり過ぎだが、たのしい偶然というのは、知識が増えることで増えるものか、としみじみ思った立待月の宵である。