新著『本格折紙』 ― 2007/07/13 21:55
書店に並ぶのは7月20日前後とのことです。
ありていに言えば、このブログを始めたのにも、販売促進という意味があります。
この文章も、営業モードなのか、それまでの記事と違って「ですます調」になっています。
あはは。わかりやすいですね。
『本格折り紙 −入門から上級まで−』 前川淳
日貿出版社 2200円+税
副題に「入門から上級まで」とあるように、折り紙好きのひとはもちろん、折り紙になんとなく興味を持っているひとにも勧めることができる本をめざしました。一方で「本格」ですから、専門性の高い本という一面もあります。後者に関しては、どこまで読者に伝わるものができたのか、わたし自身は評価はできませんが、さまざまな思いを込めました。
未発表作品・新作もたくさん掲載しています。既発表作品も、図は描きおこしです。
帯の文は、ミステリ作家の綾辻行人さんに書いてもらいました。
横溝正史賞の『首挽村の殺人』(大村友貴美著)と勘違いして買っていくひとがいるはず(?)です。
帯の文と言えば、かつて、綾辻さんの『時計館の殺人』に「神か悪魔か綾辻行人か!」という惹句がありました。わたしと綾辻さんが逆の立場だったら、以下のようなネタを使ったような気がします。
「紙の悪魔だ。 綾辻行人」
北の空の黒い幾何学模様 ― 2007/07/15 12:25
「ある秋の夕べ、仕事帰りに小山のうえからその電柱と空気の分水嶺にむかって下りようとしたとき、北の空に、黒い幾何学模様とでもいうべき平らかな物体があらわれた。三角形なのか平行四辺形なのか扇形なのか、先頭の一点に引っ張られて自在にかたちを変化させながらその黒く薄っぺらい布はくるりくるりと向きを変え、ときにはまんなかあたりに引いた線を中心に空の反対側へ折り紙のように自分自身を折って旋回をつづけている。レーダー網をかいくぐるというあのステルス戦闘機か、満月を背景にマントをひろげて飛んでいくバットマンにも似たその物体がどうやら鳥の大群であると認識できたのは、雨水が集まり空気が変わるいつものポイントまで下りてきたときのことで、しかもそこは、彼らがねぐらへむかうまえに使っている集合場所のほぼ真下にあたっていた。」『バン・マリーへの手紙』(堀江敏幸著 2007/05)収録の『ブラック・インパルスのゆくえ』の一節を、長めに引用。堀江さんの文章は長いので引用も長くなる。「その電柱と空気の分水嶺」といった言葉の意味するところは、同書を読んでください。
引用部分はいくぶん不穏な雰囲気を醸しているようにも読めるが、ふっと空いた時間にゆっくり読むのに最適な散文集で、そうした本に「折り紙」を見つけたのには、なんだかとてもうれしくなった。
そして、以前から漠然とあたためてはいるのだけれど、「アナロジー(類比)や比喩としての『折り紙』」なるテーマは、けっこう面白い研究になるかもしれないと、あらためて感じた。面白がってくれそうなひとも5人ぐらいは思い浮かぶ。って5人だけかい。
そうした、いわば文系的な研究とはまったく違って、鳥の群れがかたちづくる秩序は、理系的にも面白い。これに関しては、整列する、凝集する、近づき過ぎない、というたった3つの規則だけでリアルな動きを見せる、クレイグ・レイノルズ氏のコンピュータシミュレーション・Birdoids(あるいはBoids)という研究がよく知られている。
誤植 ― 2007/07/16 15:23
ある意味わかりやすい間違いで、本文や図のキャプションは正しいので、笑って見逃してください。
『本格折り紙』誤植諸般の事情(初版の事情とも言う、って、こういうときにもダジャレかい)で、チェックが甘くなってしまった箇所である。
51ページ ユニマット折り紙(誤)→ユニット折り紙(正)
108ページ 正面体(誤)→正多面体(正)
前者は、最近大きな爆発事故を起こした会社の名前だ。
校正の重要さ・おそろしさを戒める「校正おそるべし」というシャレ(論語の「後生畏るべし」から)は、明治の世からある定番らしいが、はじめて知ったのは、花田清輝氏の同名のエッセイによってだったと記憶する。「芭蕉扇」(『西遊記』で、火焔山の火を消す扇)が、すべて「芭蕉翁」(松尾芭蕉のこと)になってしまったという内容で、孫悟空が松尾芭蕉を振り回すという図はそれはそれで面白いかもしれない、なんてことを花田氏は書いていた。
芭蕉翁と言えば、誤植に関する俳句があることを、ネットを検索して知った。
「また一つ誤植みつけぬみかん剥く」(久保田万太郎)自分の文章の校正をしているさいに詠んだのだろうか。そこにあるのは、諦念というか諦観というか、まさに俳諧の境地だ。わたしもみかんをむきたくなったけれど、季節外れだ。
何年か前にでた本だが、誤植の精霊(?)のひき合わせか、つい先日読んだ北村薫さんの『ミステリは万華鏡』(2002/09)にも次のような話があった。あるミステリ小説を文庫化したさいに一行完全に欠落してしまったために、推理のつじつまが一部で合わなくなっていた。しかし、その本は、一読者の疑問があるまで何十版も版を重ねてしまっていたのである。
オリツルサイダー ― 2007/07/18 13:03
フェア初日に見つけたのは、「折鶴コレクター」としての自分の鼻を自慢してよいと思う。
用語 ― 2007/07/20 08:08
AMAZONでは、いきなり在庫切れ。入荷数が少ないだろうから、早くも幻の本になっている。
さて。誤植はある意味わかりやすいけれど、それとは違って、いまになって「気になる用語」というものがある。
- その1
- ミウラ折りの学術的な名称として「二重波形可展曲面」と書いた。過去にこう記されていたのだが、これは、そもそも「developable double corrugation surface」の訳語のようなものだ。developable とsurfaceという単語は頭と末尾で離れているが、通常、developable surfaceは「可展面」と表記する(ただし、中国語圏では「可展曲面」のようだ)。surfaceは工学や数学では「曲面」とする場合が多く、曲面は平面をも含むが、ミウラ折りは平面の組み合わせであり、曲面という言葉は誤解を招くところもある。三浦先生も、最近の論文で「二重波形可展面」としていた。よって、変更の機会があれば、「二重波形可展面」にしようと思っている。
- その2
- 沈め折りの一種・open sink foldは、英語圏で成立した用語(概念)である。これを「開く沈め折り」とした。ふつうに和訳すれば、「開いた沈め折り」になるが、全体をいったん広げるようにして押し込むという手順の感覚を伝えたいとの思いがあって、このようにした。つまり、以下のようなことである。
「閉じた(ままの)沈め折り」⇔「開く(ようにして)沈め折り」
しかし、「開いた沈め折り」は、ある程度定着しているとも言え、「開く沈め折り」は、語感としてもよいと言い切れないところもある。
- その3
- 「平織り」、つまりモザイク模様のような折り紙のことに関して、tessellation origami と書いたが、通例では、origami tessellationという語順のようだ。
なお、折り紙の本の場合、重要なのは、文章よりも図である。これは、(営業的に言えば)折り紙が特別に得意ではないひとが図を見て折り、つまづいた部分を修正してあるので、大きな間違いはない。はずである。
4D2UとFreeBSDと折り紙 ― 2007/07/21 19:48
この日のコンテンツは、「宇宙の大規模構造」。地球を離れ、太陽系を離れ、銀河を抜け、銀河団の泡構造までという映像である。細部に最新の観測や理論の成果が使われている。チャールズ&レイ・イームズの傑作短編映画「パワーズ・オブ・テン」の21世紀立体版だ。
4D2Uは、天文学における応用科学・実学というのはエンターテインメントであるということを、本家の国立天文台がど真ん中の直球で見せた施設である。天文学そのものがエンターテインメントだと言えば、そうかもしれない。…わたしの日常業務はそうでもないけれど。
観覧後、この、4次元デジタル宇宙プロジェクトのメインメンバーのひとり、国立天文台の小久保英一郎さんと話をしてきた。会うのは初めて。
なんの話をしたかというと折り紙についてである。これは、小久保さんがFreeBSDというOSのエバンジェリスト(伝道師)であることに関係しているのではないかと思っていた。Linuxのマスコットのペンギンは有名だが、FreeBSDのそれは、赤い小悪魔なのだ。ひとづてに、小久保さんが「悪魔の作者の前川氏に会ってみたい」と言っていると聞いたとき、てっきりそちらのほうだと思ったのだが、まったく違っていて、氏は『季刊をる』を購読していたなど、折り紙好きだったのである。スクーバダイビングもする小久保さんは、帆のようなディスプレイを持つ魚「ヤマドリ」を折ってみたい、だれか折ってくれないかと言っていた。
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