国立天文台野辺山 特別公開2020『今年はおうちで特別公開』2020/08/28 17:51


折り紙のビデオも公開しています。(今日から先行公開中です
今年は「電波望遠鏡」と「日時計」のふたつです。

日時計は、プリントした紙でつくるもので、使ってみてください。

夏らしい雨が
ゆれうごく高い梢の中から
降りそそぐとき 日時計は暫く休む
なぜなら 日時計にはその時間をどう表していいか分からないからだ
(ライナー・マリア・リルケ『日時計』富士川英郎訳より)

紙袋2020/08/09 10:25

柴崎友香さんの『百年と一日』。もっとゆっくり読むべきだったが、読み終わってしまった。ジョイスの『ダブリン市民』をさらに断片化したような、褪色して消え去ってゆくような話を、すくい取るように、しかし淡々と描いた短編集だ。

ここ何冊か、ハリウッド映画の脚本みたいな小説ばかり読んでいたので(それはそれで面白いのだけれど)、小説を読むこと以外では得られない時間をくれる小説にひさしぶりに触れた気がした。

カバーの紙袋の絵もすばらしい。毛並みのみごとな茶虎猫の絵『猫』で有名な長谷川潾二郎氏の絵だ(装幀:名久井直子)。並んだ瓶ばかりを描くジョルジョ・モランディの静物画を連想した。

紙袋といえば、工芸家・小松誠さんデザインの、紙袋をモチーフにした陶器をひとつ持っている。
『百年と一日』

そしてさらに紙袋といえば、思い出すことがある。直方体型の紙袋の側面の畳みかたは、谷折り3本のY字+山折り1本が典型だが、これについて、D. J. BalkcomさんやE. D. Demaineさんらの論文『Folding Paper Shopping Bags』に示されている次の定理があるのだ。
ショッピングバッグは、伝統的な折り目による剛体折りはできない
Y字+1の折り目では、面を歪めることなく畳むことはできないということである。

福島県塙町:ダリアの折り紙作品募集2020/08/02 11:50

福島県塙町が、ダリアの折り紙作品を募集しています(日本折紙学会後援)。
わたしは、何年か前から、折り紙ファンの町の職員のかたと知り合って、いくつかのイベントに関わったこともあり、すこし協力しています。

今回は、ステイホームでもできる町興しへの貢献で、誰でも応募でき、賞金もけっこう大きい(!)ので、「折り紙者」のみなさん、ぜひ参加してください。

塙町:ダリアの折り紙作品募集

第28回折り紙の科学・数学・教育研究集会など2020/07/15 00:00

◆第28回折り紙の科学・数学・教育研究集会
7月18日(土) 10:00-17:00に、日本折紙学会主催、第28回折り紙の科学・数学・教育研究集会をオンラインで行います。チケット販売中です(コンビニ決済もあります)。

◆『紙幣鶴』その後
ひとつ前に書いた、斉藤茂吉の随筆『紙幣鶴』の鶴はどういうものだったのか、という話のつづきである。これを読んだ知人が、「1920年ごろのオーストリアの1000クローネを調べたら、いま一般的な紙幣とは長方形の比率がずいぶん違っていました」と教えてくれた。たしかに、かなり横が短い。古銭ショップの映像から計測すると、100対151であった。これなら、折り返して、鶴を折りやすそうだ。

100対151という値は、映像から計測したので、誤差もありそうで、ぴったり2対3かもしれない。となると、『秘伝千羽鶴折形』の「拾餌(ゑひろひ)」、「呉竹(くれたけ)」、「杜若(かきつばた)」、「瓜の蔓(うりのつる)」がその比率の長方形だ。それらは、切らないといけないが、第一次世界大戦後のドイツで1兆倍のハイパーインフレーションになったように、同盟国のオーストリー・ハンガリー帝国でも、それは紙切れ同然だったようだ。

なお、「オーストリアの王冠を飛ばす」と書いたが、王冠=Kronenは、彼の国の貨幣の単位でもある。コロナウイルスのコロナと同じ語源である。

◆豆大師の並び
アマビコ、アマビエなどの図像が、感染症避けの護符として注目を集めているが、よりメジャーなのは、鍾馗や元三大師(がんざんだいし)だ。元三大師こと、平安時代の高僧・良源の伝説を起源とする護符は、角大師(つのだいし)と豆大師の二種類がある。角大師は西洋の悪魔に似た図像で、豆大師は、観音信仰に基づく三十三体の小さな大師像を描いたものだ。
元三大師の護符

この護符は、東京・調布の深大寺の未使用シールが我が家にもあった。「悪魔の前川」として、瓶詰めの悪魔という呪物をつくるさいに封印として使おうと求めたものである。あらためて見ると、豆大師の並びも気になった。三十三の観音の化身に由来する三十三の大師像の並びが、2+3+4×7になっている。33という数字なら、3,4,5,6,7,8の台形、そして、2,3,4,5,6,7,6という3回回転対称の六角形もきれいだ。
33の並び

月刊『みすず』など2020/07/04 22:44

◆月刊『みすず』
みすず書房の月刊誌『みすず』で、『空想の補助線』というエッセイの隔月連載を始めた。一回目は、自己紹介ということもあり、折り紙について書いたが、編集者さんと、いろいろ話題を広げていきましょう、と話している。最近、文章を書いて披露する機会が増えていて、不思議な気分である。

◆黄金薔薇匣
先週、美術大学のリモート講義で、非常勤講師をした。講義のアウトラインは、折り紙造形における黄金比の話とした。講義の準備で「ゴールデン・ボックス」という黄金比を使った作品をあらためて検討しているうちに、山折りと谷折りを変えるだけで、薔薇のような模様ができることに気がついた。組むのはパズルだが、面白い。
黄金薔薇匣

◆ストレスは案外低い
タイガースファンは、プロ野球が始まってむしろストレスが増えたと言っているらしい。しかし、無観客ゲームで練習のような感覚もあり、まあこんなものかと、思いの外ストレスは低い。ただし、パ・リーグ最下位のバファローズの勝ち星の数は気になって、「今日のオリックスくんはどうかなあ」とチェックをしている。

◆『紙幣鶴』
斎藤茂吉が、『紙幣鶴』という短いエッセイ書いていたのを見つけた。1920年代、オーストリアのカフェで、彼の地の千円紙幣(この言いかたも面白い)で鶴を折って飛ばす女性が、「墺太利のお金は、こうやってどんどん飛ぶわ」とか 「 fliegende oesterreichische Kronen!」(オーストリアの王冠を飛ばすといった意味)と言っていたという話である。

飛ばしたといっても、たちまち床に落ちたとあるので、あまりよく飛ばなかったようで、それはそれで納得(ふつうの折鶴は紙飛行機のようには飛ばない)なのだが、気になるのは、長方形(約2:1)の紙幣で、どのように鶴を折ったのかということだ。まさか、正方形に切ったわけではあるまい。そもそも、それはほんとうに鶴だったのか。

折り畳んで正方形にしていたのであろうが、長方形をそのまま使ったとすれば面白い。長方形の頂点を、そのまま頂点とする四角形ではなく、長辺の中点ふたつと、長辺の延長が無限遠で「交わる」点ふたつ、その4点を頂点とする四角形を考えると、そのかたちからも、基本条件を満たす折鶴がきれいにできることを川崎敏和さんが指摘している。写真は、玩具のドル紙幣を用いて、その方法で折ったものだ。名付けてT$URU)。1920年代のオーストリアで、そんな鶴を折っていたひとがいたとは、まず考えられないけれど。
T$URU

◆『獨楽吟』
7月末に刊行される日本折紙学会の機関誌『折紙探偵団』に、『折り紙がでてくる小説から』という記事を書き、幕末の国学者・橘曙覧(たちばなあけみ)の『獨楽吟』から一首を引いて、題辞として使った。

たのしみはそぞろ読みゆく書(ふみ)の中(うち)に我とひとしき人をみし時

『獨楽吟』は、「たのしみは」の初句で始まる五十二首で、ほかに次のような歌がある。

たのしみは朝おきいでゝ昨日まで無かりし花の咲ける見る時
たのしみは常に見なれぬ鳥の来て軒遠からぬ樹に鳴きし時
たのしみは人も訪(と)ひこず事もなく心をいれて書(ふみ)を見る時

現在、基本的にリモートワークではなく、出勤して仕事をしているが、感染症による交流の自粛で、そうでなくても隠居じみていたわたしの生活は、よりその面が強化され、まさにこの歌みたいになっている。

家の周囲は、今年は草刈りが遅れたこともあって、螢袋(ヤマホタルブクロ)がよく育っている。花の上で羽化した蝉の抜け殻も見た。たぶん、蜩(ひぐらし)だ。一週間ほど前に今年初めてその声を聞いたばかりである。螢袋の花は、タコウィンナーにも似ていてるが、花弁は五裂で、桔梗の同類であることも主張している。
ヤマホタルブクロ

垂れて咲く螢袋は雨の花 澤村芳翠
かはるがはる蜂吐き出して釣鐘草 島村元

釣鐘草は螢袋の別名だ。この句のように、螢ならぬ蜂がその花の中に潜り込んでいるのはよく見る。暗闇で中に螢がはいっていたら雅趣があるが、家の近くには螢はいない。しかし、この季節になると螢を見たくなる。ということで、先日、より標高の低い螢の棲息地に行き、ふわふわと舞う螢火に、ああ今年も螢を見たなあと納得した。
螢

蜂と螢袋は共生しているようだが、ムシトリナデシコは戦っている。虫取撫子は、紅色の五弁の小さい花が、分岐する茎の先端に多数咲く野草だ。食虫植物ではないが、葉の下の茎に粘液を分泌する部分があり、虫が捕らえられる。写真は、じっさいに虫が脚をとられていたさまだ。受粉に利さない蟻のような虫を避けるということらしい。今年はじめてそれと知った花だが、父母の遺品である『日本大歳時記』にも載っていた。別名を小町草というのだそうだ。
虫取撫子

その歳時記によると、薊(あざみ)は春の季語だが、花期は初夏から夏なので、ひぐらしの季語が秋であることと同様に、納得しがたい。ただ、夏薊という季語もある。
薊の蕾
薊の蕾を初めてしみじみと見ると、向日葵の種のようなフィボナッチ螺旋状になっていてみごとだった。

というふうに、環境に恵まれていると、身の周りに広がる小世界でも、充分満足できる。しかし、こんな言葉もある。

草の庵を愛するも咎とす 閑寂に着するもさはりなるべし
(草庵を愛するのも罪である。静謐に執着するのも悟達の障害となる)(『方丈記』

隠遁者にも我執があることを述べているのだが、それとはまた別に、昨今は、小世界での充足の外の世界で苦しんでいるひとがいる情況を思わざるをえない。『橘曙覧全歌集』を通して読んださいも、曙覧が尊王攘夷思想に陶酔し、彼の自己肯定感が身辺と皇国日本だけを巡っているのには、もやもやした。

などと考えているからか、最近は、「ここは平和だなあ」が口癖になっている。夕刻にひぐらしの声を聞き、風に揺れる螢袋を見て、そう呟くこと自体、惧れであり、後ろめたさの表明なのだろう。ちなみに、「後ろめたい」の語源は「後ろ目痛し」すなわち、視線が痛いということであるという。

ブックデザインなど2020/06/21 10:18

◆ブックデザイン
『宇宙と素粒子』(千夜千冊エディション)(松岡正剛)の装幀に、作品を提供した。

宇宙と素粒子』(松岡正剛)

◆折り紙パズル
折り紙による幾何の問題を思いついた。自分で考えたいひとのために、解答は「シール」で隠しておく。

◇問題
・正方形の紙を折って、その中心に、面積1/25の正方形(辺が1/5の正方形)を作図せよ。
・工程は6回とする。
・1回の工程は、明確な目安で折り目をつけることのみとする。
(つまり、折って戻すことで直線を引くことのみとする)
(よって、6回の工程のうち4回は、正方形の辺を描く工程になる)

◇解答
1/25折り紙パズル

◆90度の1/4
ふと見た温度計が、22.5度という「折り紙好きのする数値」になっていたので、写真を撮った
22.5度

◆ひび割れ
先日、眼鏡が破損してつくりかえたが、今度は、スマートフォンの画面に盛大にひびがはいった。木製の床の上に1mぐらいの高さから落下し、それほど強い衝撃ではなかったと思うのだが、条件が重なったためか、みごとなひびになった。
ひび
ガラス面と床面が角度なしに両のてのひらを合わせるように衝突した。べゼル(枠)に接する部分にすでに小さな亀裂があったので、それが初期条件になって破壊が広がったようだ。それゆえか、端点(左下)から成長した、木の枝や稲妻に似た構造があるように見える。ある意味きれいで、寺田寅彦先生に見てもらいたい(!?)。