『The Arrival』(Shaun Tan)など2020/01/11 21:56

昨年の夏、東京のちひろ美術館で開催された「ショーン・タンの世界展」。観ることができなかったが、妻が買ってきた図録をたのしんだ。同展は全国を巡回中で、秋の京都に続き、いまは、宮城県石巻市の石ノ森萬画館で展示中である。

このタンさんのグラフィックノベル『The Arrival』(2006)で、折り紙が重要な役割を持っているということを、最近知った。グラフィックノベルというのは、文字のまったくない物語という意味でつけられた呼び名である。
『The Arrival』(Shaun Tan)
今日、原著版を買ってきた。写真は、すりきれた本のように見えるがそういう絵なのである。

下は、折り紙が描かれたシーンから抜粋したものだ。
『The Arrival』(Shaun Tan)から

これは、家族を養うために、国を出たひとりの男の物語である。そして、彼の特技が折り紙なのだ。タンさんの筆は写実的なのだが、画面のそこここに奇妙な生物も登場することで、独特な世界がつくられている。その奇妙な生物のひとつが、表紙にも描かれたクリーチャーだ。『ウルトラマン』の「ガヴァドン」の第一形態に細い脚が生えたみたいな可愛らしいやつである。

そいつは、作中で折り紙作品にもなっていて、その絵も描かれている。凝った造形ではなく、「折り紙らしい」造作である。これを、じっさいに折ってみた。伝承のカエルのつくりに似ていて、それでもかたちになったが、ざぶとん折りしたカエルの基本形を用いて、尾や後脚を長くするなど、若干の技巧的な工夫を加えてみた。
『The Arrival』のかわいいやつ

◆折り紙的読書
正月休みはいつも以上に本を読んだ。そのいくつかが折り紙に関係している。

似鳥鶏さんの楓ヶ丘動物園シリーズの最新作『七丁目まで空が象色』でも、アイドル飼育員・七森嬢の折紙者ぶりが健在だった。今回の彼女はまったく別の活躍も。

ほしおさなえさんの活版印刷三日月堂シリーズ最新作が、『活版印刷三日月堂 小さな折り紙』という題なのであった。保育園で折り紙を折っていた幼児が突然泣き出す。その理由は?という話である。わたしは、このシリーズは読んでいないのだが、妻が読んでいて、とりあえずこの話だけ読んだのであった。

故・吉村達也さんの文庫新刊『悪魔の手紙』の表紙絵に折鶴がでていたのでジャケ買いした。30年近く前の作で、やや時代も感じたが、トリック解明のヒントに加藤一二三さんの名前がでてきて、氏は時代を超えているな、とも。

鯨統一郎さんの『文豪たちの怪しい宴 』もジャケ買いした。これは表紙のおじさん(挿画:浮雲宇一氏)がわたしにそっくりだったからである。このおじさん(曽根原氏)、作中ではピエロ扱いなんだけれどね。『雲』(エリック・マコーマック著、柴田元幸訳)に挟まっていた新刊案内チラシを妻に見せたら、「あら、そっくり」となったのである。

その『雲』は不思議な小説であった。以下の文は、テッド・チャンさん的だ。

ひょっとしたら、一見ごく取るに足らない要素 — 聞き間違えた一言、誤った想定、無理もない計算間違い — こそ実は、物事の連鎖における何より強力な環なのかもしれないのだ。

『雲』の表紙は、本から外に雲が飛び出す浅野信二さんのトロンプルイユ(だまし絵)である。浅野真一さんという画家を知っているので、一瞬えっと思った。落ちついて見れば作風も違うが、浅野真一さんの絵も、ミニマリスム的な小説や歌集・句集の装幀に合いそうな気がした。

◆新宿某デパート
新宿某デパートのディスプレイで、わたしの作品(ねずみ)に遭遇した。写真はそのうちのひとつである。尾をすこし上にあげすぎかな。商用での使用は、出版社経由で連絡してね。
新宿某デパート