『魔法を召し上がれ』2019/05/26 11:01

瀬名秀明さんから、新刊『魔法を召し上がれ』をご恵贈にあずかった。若いマジシャンの物語である。
『魔法を召し上がれ』(瀬名秀明)

献本をうけることは多くはない。そんなわたしが読者に選ばれた理由は、折り紙である。氏の前作の『この青い空で君をつつもう』と同様、この物語にも、重要な小道具として折り紙が登場する。ただし、折り紙をマジックで扱うのは、たぶん、簡単ではない。作中でも、主人公が「マジックはお客様が見ているものが途中で別のものに掏り替わることで驚きが生まれる。ただなぜか折り紙でそれをやると、嘘が入り込む感じがする。折り紙はカードやロープなどと違ってぼくたち日本人の指先に馴染んでいるからだろうか」などと考えている。瀬名さんのこのあたりの感覚はじつに繊細だ。かっこいいカバーのコラージュ(Q-TA氏)に折り紙がつかわれていないのも、似た理由かもしれない。

『この青い空で...』が出版されたあとの一昨年、日本折紙学会は、年次コンベンションの講演に瀬名さんを招いた。氏はそのとき、次作でマジックと折り紙をモチーフにするつもりです、と話していた。わたしはわたしで、そのときの瀬名さんの話に刺激されて、マジックと折り紙の関わりについてすこし調べた。上に、マジックで折り紙をつかう難しさを記したが、両者の親和性が高いのも、またたしかなのだ。たとえば、イギリスで、ひいてはヨーロッパで折り紙を広めたひとりであるロバート・ハービン氏は、マジシャンであった。このつながりは、わたしも以前から気になっていた。ただ、わたしが一番の関心を持ったのは、江戸時代の奇術だった。その調査の結果は、日本折紙学会の機関誌『折紙探偵団』166号と167号(2017)のエッセイ『江戸の奇術と折り紙』で報告した。『仙術日待種』などの文献に記された「火中より鶴を出す術」をじっさいに実験してうまくいったことなど、たのしい調査だった。下の写真はそのときのもので、蒟蒻粉をひいた紙は燃えてもかたちがのこるという「科学手品」である。
「火中より鶴を出す術」

いっぽう瀬名さんは、この物語で、ありえたかもしれないすこし未来の世界でのマジックを語っている。ところどころに挟まれるテクノロジーのガジェットに、瀬名節が横溢する。そして、ア・ボーイ・ミーツ・ア・ガールであり、ア・ボーイ・ロスト・ア・ガールの物語であるということも相まって、手塚さんや藤子(F)さんの描いた懐かしい未来、ジュヴナイルの手触りがある。また、これは、謎解きミステリでもあり、西洋料理、フランス料理の給仕の物語でもある。カバーや表紙に、タイトルのフランス語訳である「Délectez-vous De la Magie」が印されているのは、そういう含意だろう。その記述からひとつ思いついたことがあったので記しておこう。
Roi de la magie なる言葉だ。魔術の王という意味になる。

おわかりだろうか、この言葉のなかには、origamiが含まれている。roi magi→origami
折り紙びいきとしては、折り紙はマジックの王なのでないかと、密かに思っている。