星の賽2017/11/30 00:02

stella octangula
ドイツ文学と思想史の研究者・長谷川晴生さんのTwitterで、トートナウベルクという村のハイデガーの山荘の近くに、多面体の意匠のついた「星の賽の井戸」なるものがあることを知った。

この立体は、幾何学の用語では、stella octangula(星型八面体)と呼ばれるものだ。星の賽(sternwürfel)という言葉(訳語もいいねえ)は、ハイデガーの山荘を訪ねたツェランの詩『トートナウベルク』にでてくるものである。この言葉がいつからあるのかはわからないが、ここでsternwürfel すなわち star dice(cube)という言葉が使われているのは「適切」だなあと思う。単に立体という意味でdice(cube)なのかもしれないが、この立体は立方体と相性がよいのだ。

この立体の8個の凸頂点は、立方体の頂点と一致し、凸になっている稜(辺)は、正方形の対角線と一致する。したがって、この立体を立方体から削り出すのは難しくない。立方体の12個の稜を「く」の字型に削ればよいだけなのだ。

長谷川さんも指摘しているように、ハイデガーを訪ねて、この井戸に遭遇したユダヤ人のツェランには、これがダビデの星に見えたに違いない。意味深長な象徴性で、ナチス党員になったこともある哲学者と、自身も強制収容所に送られ、両親をそこで亡くした詩人の対面に対する感慨がわきあがるのと同時に、わたしには、この幾何立体の歴史への興味もわいた。この井戸の来歴や、この装飾のいわれはなんなのだろうかということである。

この立体は、ケプラー(1571-1630)の発見と言われることが多いが、『多面体』(P. R. クロムウェル、下川航也他訳)に「パチョーリやヤムニッツァーなど、以前から知っていたものも多かったようである」とあるように、より古くから知られていた立体であると考えられる。パチョーリ(1445-1517)とダ・ヴィンチ(1452-1519)は親交があり、画家がこの立体の絵を描いているので、ダ・ヴィンチの星と呼ばれることもある。ただ、ケプラーが自ら見つけたのもたしかなようで、16世紀以前にドイツで知られていたかたちとは思えない。 案外、これは、ケプラーへの敬意もあって、ドイツにあるものなのかもしれない。