月の話と北斗七星の話2017/01/05 23:15

○月の話
大晦日の三日月
大晦日の東京郊外の夕暮れ、三日月と富士山の写真である。写真にすると、肉眼では気がつきにくい地球照がよくわかるのが面白い。地球照というのは、地球の反射光による、月の暗い部分への照射である。この日は、太陰太陽暦12月3日(正午の月齢が1.8。月齢+1が日付になる)だったので、正しく三日月だ。実際はもっと細いが、写真ではやや太く見える。

「三日月!」という月が、じつは5日ぐらいというのはよくある話だ。『月のうた』を書いた小説家の穂高明さんも、「三日月は(一般に思っているより)とても細い」と書いたのだが、意見があって削ったとのことだった。たしかに、3日前後の細い月を総じて三日月ということはある。なお、三日月は細いだけでなく、見つけてから沈むまでの時間が短いというはかなさもある。

1月2日の月と金星
翌々日の1月2日、この日は「五日月」と並ぶ金星がきれいだった。さらにその次の日の1月3日は、「六日月」と火星が並んでいた。1月1日にテロがあったトルコでも、翌日2日の日没時には、金星と月が、この写真よりも離れているが、並んでいたことになる。宵空に天の「新月旗」を見て平和を願ったひとたちもいたのだろう、などと考えた。

月は、天球上を約1ヶ月で1周する。月の公転に地球の公転も加わるので、その周期(恒星月)は、満ち欠けの周期(朔望月、29日余)より短く、約27.3日である。つまり、月は、天球上で1日に360°/27.3=約13°動く。中国の天文学で赤道帯を28に分ける二十八宿も、月のこの動きに基づくとされている。27ではないのは、東西南北の四方位に合わせるために4の倍数としたためだろうか。この約13°/日という動きはけっこう大きい。上にも書いたように、1月2日に金星と並んでいた月は、3日には大きく離れ、火星の近くにあった。月はせわしないのである。

天球上での月の通り道は白道と称し、地球と月の公転面に角度があることから、1年で太陽が1周する黄道と、約5°の角度がある。黄道と白道はともに天球上の大円で、そのふたつある交点付近に太陽が来たときが、月と太陽がほぼ重なって、日食や月食の機会となる。ただし、このとき、太陽と地球の間に月がはいるポジション、つまり、新月とうまく重ならなければ、日食にはならない。

しかし、交点でぴたり新月とならなくても、月と太陽の視直径が大きい(0.5°)ことと、月と地球が近いことで視差(地心座標と測心座標のずれ)が最大約1°(atan(地球の半径/月までの距離))になることから、それらを足した1.5°以内にあれば、地球上のどこかから見て、月と太陽は、重なったり、かすめたりすることになる。つまり、交点から両側で、1.5°/tan5°≒17°以内であれば、日食はおきる。日食限界といわれる値である。太陽がその範囲にあるのは、365*17*2/360で、約34日である。これは約1ヶ月なので、この間、月は必ず一度は新月になる。要するに、年に2回、日食はおきる。案外頻繁なのである。この30日余の間に、新月が2回のこともある。さらに、白道と黄道の交点は、太陽による摂動で移動する(約19年で一周:サロス周期)ので、食に関する1年は365日ではなく約347日である。よって、日食が、年に3回以上となることも稀ではない。たとえば2029年には、部分食が4回ある。問題は、どこから見えるかということだ。

今年は、2月26日に金環食、8月21日に皆既食がある。残念ながら、いずれも日本からは見えないが、8月の皆既食は、北米で広範囲に見える。

とまあ、年末年始に月を気にしていたのは、いつも見ているといえばそうなのだが、野辺山の45m望遠鏡に積んだ筑波大学の新しい受信機が、月や金星を試験観測用の天体としていたためでもある。今回、新装置の制御ソフトウェアの一部をつくったのと、前からある機能ではあるが、めったにつかわない月の追尾なので、東京で月を見ながら、トラブルがないとよいなあ、とメールをチェックし、ログ(観測記録)を見ていたのだ。この試験は、ひとまず成功して「ファーストライト」を得たので、めでたしであった。

観測所の計算機運用といえば、元日には、うるう秒もあった。わたしは休みだったが、なにもなければ休みなのに出勤したひともいた。日本は朝9時だからまだよいが、1月1日にうるう秒いれるのをやめてほしいと思ったエンジニアはとても多かったはずである。天体現象に基づく(地球の自転による協定世界時と国際原子時のずれの補正)のだが、いついれるかは恣意的なので、1月1日はやめてほしい。

☆北斗七星の話
天文と氣象
卍:北斗七星説

植村卍さんによる「妙見信仰と卍の関わり」説と似た話が、1950年の『天文と氣象』のグラビアにあることを見つけた。編集部による記事のようで、説のでどころのみならず、執筆者も不明である。同号には、著名な気象学者・藤原咲平氏による「渦巻」と題された解説記事も載っているが、そこに、この北斗七星の話がでてくるわけではない。なお、この『天文と氣象』は、昨年、神保町の古本のワゴンでたまたま手にとったものである。

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