◆♪テンテコ
いろいろと忙殺されているのだが、というより、忙殺されているので余計に、ここ2週間ほど、折り紙の創作に逃げ込んでいた。
と、書いていて思ったのだが、「忙殺」は、物騒な感じもある言葉だ。ただし、辞書をひくと、「殺」は単なる強意のために添えられた字であるとのことだ。最近の口語の接頭辞であるオニ、ガチのようなものと言えるだろう。
たしかにほかにも、殺到とか、殺伐、殺風景なんて言葉もある。魅力で惑わす悩殺、嘆き悲しむ愁殺、秋風が身に染みる蕭殺、無視を決め込む黙殺、一笑に付す笑殺、鼻であしらう嘲殺、驚き呆れる驚殺、冷淡に放置する憫殺、無視で追い込む閑殺などもある。死屍累々である。
ほんとうの死を前提としてない「死」の表現も、修辞としてふつうである。まあ、わたし程度の忙しさでは、忙殺というほどではないという気もするので、「てんてこ舞い」とか「大わらわ」に言い換えたほうがよいかもしれない。以下のように。
いろいろと、てんてこ舞いなのだが、というより、てんてこ舞いなので余計に、折り紙創作に逃げ込んでいるこの頃である。♪テンテコ ♪テンテコ
じつに間抜けな感じで、このぐらいがわたしには相応しい。というわけで、ここ2週間ぐらいの、てんてこ舞いの中でできたモデルの紹介である。
◆まずは糊嫌いの話から
折り紙造形、とくにユニット折り紙は、面と面の摩擦、あるいは、凹凸の組み合わせや紙の応力によってかたちが安定する。
面と面の密着には糊を使うこともあるが、糊は、わたしが折り紙造形において最も避けたいものである。常に平面に戻せるようにしていないと、折り紙の意味が薄まってしまうと思うからだ。完成形から平面に戻す道筋を、文字通り開かれた状態にしておきたい。じっさいに戻すかどうかを別にして、そうしておかないと、ごまかしたように感じる。
展示の安定のためなどで糊をつかうことがあるが、やや不本意である。折り紙では、完成の造形にも増して変形に意味がある。西川誠司さんの言う「四次元的造形(工程、すなわち時間軸を含めた造形)」という話に通じる。完成形と展開図を並べる展示方法にも、そうした意味が込められている。
同じ理由で、紙を水に浸して、できあがりの曲面を固めるウェットフォールディングも、実はあまり好きではないのだが、ジャン・ディンさんの作品のような、曲面がゆるやかで平面からの変形が見てとれる造形は大好きである。
数学的に言うと(?)、特異点を解消できるようにしておくということかもしれない。折り紙の造形は、折り目という特異点の集まりで、微分幾何的には、ごちゃごちゃしている。特異点を解消する道筋をのこしておいてあげたい。「のこしておいてあげたい」って、擬人化しているのは変だけれど。
◆線と線の密着
以上の話を前おきにして、線と線の密着に関する話である。多面体の造形を考えたとき、面と面ではなく、点と点、線と線を密着させたいことがある。点と点は難しいとして、折り紙にはなじみにくい線と線の密着を物理的に行うにはどうするか。摩擦を利用することは困難で、上記のように糊も使いたくない。
多くの場合、線と線の密着はあきらめて、面を付加するようなかたちにつくりかえる。しかし、そうすることで、幾何学的な明快さが失われてしまうことがある。
で、ヘアピンや輪ゴムはどうだろう、という話である。わたしにとっては、これは、糊を使うより、はるかに「折り紙的」である。
◆輪ゴムを使うモデル
同様のもので、造形的に悪くないのは、立方八面体骨格の6枚組み(写真左)である。正方形に対角線が1本はいることで、三角形の凹みが20個になり、その配置が正20面体と同様になる。これは、ヘヤピンなしでも崩れないが、ヘヤピンでしっかり安定する。
これのフラップを最小限に近く小さくしたもの(写真右)は、ヘヤピンを数個つけないと安定しない。なお、ここでは、ヘヤピンの使いかたが、面と面の密着のためになっている。
◆ゼムクリップ
面と面の密着には、ゼムクリップを使うのもよい。動物等の折り紙モデルなどでも、クリップが表面から隠れるのなら、糊よりも「留め折り」よりも、クリップのほうがエレガントかもしれないとも思う。
◆留め具がいらないのも、やはりよい
しかし、輪ゴムもヘヤピンもクリップも使わずに安定すると、やはりうれしい。ヘヤピン留めモデルをいろいろ試すうちに、正八面体6個のオクテットトラス状のもの(写真左上)や、頂角が30度の三角形からなる四角錐×6の星型の多面体(写真右上)、立方半八面体(写真左下)が、明快な展開図できれいにまとまった。
中でも、正方形に対角線の構造があるもの(写真右下)は、一連のもので一番完成度が高い。
この「完成度」なる言葉には、自らを省りみれば、「留め具なしだぞ」という内心の声も含まれている。なんだかんだ言っても、留め具を使わないほうがよいのか...。ただいっぽうで、輪ゴム留めや、ヘヤピンが放散虫状になったものは、やはり面白いとも思っている。
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