折り紙が苦手な堀辰雄2015/11/04 21:12

小説家・堀辰雄は、少年時代に数学者を志望していたという。事実として間違いないようだ。しかし、それを本人の文章で確認しようとしているのだが、それらしいものは見つけることができていない。本人は書いていないのかもしれない。

『幼年時代』という自伝的エッセイの中に、小学校時代に算術が得意だったという話はあった。そして、そこには、図工が苦手だということも記され、初めて幼稚園に行ったときの、以下のような想い出の記述もあった。これは、折り紙関係者として微苦笑した。
午後からは折り紙のお稽古があった。例の少女のところでは、小間使いが一緒になって、大きな鶴をいく羽もいく羽も折っていた。私には折り紙なんぞはいくらやっても出来そうもないので、おばあさんにみんな代りに折って貰いながら、私は何かをじっと怺(こら)えているような様子をして、自分の机の上ばかり見つめていた。

堀辰雄と堀越二郎をひとりの人物として描いた宮崎駿監督の映画『風立ちぬ』の影響で、辰雄にも、いわゆる理系男子のイメージがついたところがある。これには、辰雄の年少の友人で、『菜穂子』に登場する明のモデルとなった、建築専攻の詩人・立原道造のイメージも混淆しているので、すこしややこしい。いっぽうで、辰雄が現実に理系男子でもあったことが、あながち見当違いではないのも、事実の奇なるところである。ただし、映画で「きれいな線を引く」と言われていた二郎とは違って、図工が苦手だという実際の辰雄は、絵に関しては、観るのが専門だったと思われる。むしろそれゆえに、絵を描く女性(矢野綾子)に惹かれたということかもしれない。『幼年時代』にでてきた、折鶴を折るツンとすました少女は、『美しい村』の「彼女」こと矢野綾子に、どこか重なるところもある。

堀辰雄と宮崎駿さんと言えば、辰雄に『羽ばたき Ein Marchen』という、妙にジブリっぽい話があるのにも驚いた。千羽の鳩が棲む高い塔のある町の話で、登場する少年の名前はジジとキキという。宮崎さんは読んだと思うが、これに言及したという話は、寡聞ながら知らない。ちなみに、Marchenのaにはウムラウトがつくはずである。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
スパム対策:このブログの作者は?(漢字。姓名の間に空白なし)

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://origami.asablo.jp/blog/2015/11/04/7884520/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。