『子供時代』(『折り紙の勝利』)2015/07/28 22:30

毎日新聞の書評に載っていたことで知った『子供時代』(リュドミラ・ウリツカヤ 著 ウラジーミル・リュバロフ画  沼野恭子訳)を読んだ。戦後すぐのロシアの子供たちを描いた六編の連作で、その掉尾を飾る作品が『折り紙の勝利』という題なのである。

祖母と母と暮らす少年ゲーニャは、病弱で友達もいない。母が心配して、誕生会を計画するが、ゲーニャはやってほしくない。緊張する誕生会の当日、ゲーニャの特技である折り紙が、小さな、しかし強い力を発揮する。
 子供たちはゲーニャの方へ手を伸ばし、ゲーニャは紙でできた素晴らしい作品を配ってやる。みんなが微笑み、ゲーニャにありがとうと言った。(中略)
 こんな気持ちは夢の中でしか感じたことがない。ゲーニャは幸せだった。恐怖も、敵意も、恨みも感じない。ゲーニャは他の子たちに何も劣っていなかった。むしろ優れているくらいだ。自分では何の意味もないと思っていたささやかな才能に、みんなが夢中になっているのだ。ゲーニャはまるで初めて見るように彼らの顔を見た。悪い顔じゃない。ぜんぜん意地悪そうな顔ではなかった。

願わくば、わたしの本や作品も、ゲーニャが愛読する『楽しい時間』という本のように、誰かの力になりますように...などと思っていたところ、TV番組で、関西の中学生が、『本格折り紙』の作品を折って外国人旅行者にプレゼントしている映像が映って、ちょっとしあわせな気分になった。

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7月26日に起きた小型機墜落現場のかなり近くに住んでいる。事故のほんの数分後に調布インターから高速道に乗ったので、黒煙と炎をすぐ近くに見た。恐ろしい炎だった。

調布飛行場に関して、騒音や危険性への指摘は以前からあった。この話がでると、「飛行場のほうがさきにあったんでしょ」と言うひとがいるが、そんなに単純な話ではない。これは、以前調べたことがある。

同飛行場は、1972年に米軍から返還されるさいに、撤去すべきという話があった施設だ。飛行場のほうがさきというが、滑走路の端から1kmない京王線のほうが古い。そもそも、1941年に首都防空基地として、陸軍(政府)が農地や寺の敷地を強制的に接収してつくった施設である。返還後も長い間(2001年まで)、場外離着陸場(ヘリポートなどが該当する施設)であった。荒井由美さんの『中央フリーウェイ』の歌詞(調布基地を追い越し)でも明らかなように、高速道も飛行場を大きく避けていないし、事故現場のごく近くには、60年前から水木しげる大先生も住んでいて、近年の新興宅地というわけでもない。飛行場は消える可能性も高かった。このような経緯をみると、騒音や危険性を指摘してきたひとたちの「すくなくとも発着数を減らすべき」という主張はきわめてもっともだ。

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