(ときどき書いてみたくなる)読書日記的ななにか2015/07/01 22:31

Jul 1 08:59:59 xxxxxx kernel: Clock: inserting leap second 23:59:60 UTC (xxxxxxは伏字)

上記は、今日の計算機のログ(記録)である。59分60秒の表示が珍しい。しかし、あらためて考えると、leap second、leap yearという表現は奇妙だ。跳ぶのじゃなくて加わるのだから。

2015年を正確に二分する時刻は、今日の閏秒があったので、明日(7/2)の11:59:59.5秒である。今年もほぼ半分が終わりである。困ったもんだ。

半年経つのも早いけれど、1ヶ月は、もちろんもっと早い。先週のブログの更新は約1ヶ月ぶりだった。この1ヶ月もいろいろあった。折り紙関連では、編集スタッフである日本折紙学会の論文集『折り紙の科学』4号をなんとか刊行にこぎつけ、折紙探偵団九州コンベンションで講師をして、武蔵野美術大学で講師をして、第18回折り紙の科学・数学・教育研究集会のまとめ役をして、折紙学会の会議に出席し、『数学セミナー』の連載原稿を書き、6OSMEの論文を校正し、第21回折紙探偵団コンベンション用の図を描いた。新作も数点でき、折り紙率の高い1ヶ月だった。

と、これは、忙しさ自慢の類だけれど、こういうのを書いてみたくなる気分は拭いきれないもので、情報提供にもなっているのでよしとしよう。かくのごとく、週末や休日がなんやらかんやら費やされる中でも、阪神タイガースのゲームを追って、読書に逃避する時間もあったのだから、真に忙しいのではなく、周囲に甘えているとも言える。そう、読書に逃避する時間もあった。以下、ここ1ヶ月で読んだ本の話も書いてみよう。

東野圭吾さんの『ラプラスの魔女』は、題名から想像がついていたけれど、『数学的にありえない』(アダム・ファウファー著 矢口誠訳)と同じネタだった。『巨人の星』が好きだという東野さんなので、大リーグボール1号が発想の元かもしれない。ページタナーの力はさすがである。読後、ファウファーさんの第二作の『心理学的にありえない』を読んでいないことに思いいたり、さっそく入手した。面白かったのだが、うすうす予想していたように、『数学的に』のほうがよかった。『心理学的に』は文字通りの続編ではないが、続編と言えば、森見登美彦さんの『有頂天家族 二代目の帰朝』も読んで、前作より面白くなっているじゃないか、すごいぞ、と感激、さらに、『有頂天』にも登場する「ぽんぽこ仮面」の勇姿に触れるために、森見さんの本では唯一読んでいなかった『聖なる怠け者の冒険』も読んだ。ぽんぽこ仮面は「週末怪人」で、わたしも「週末作家・研究者」なので、以下の言葉に強く共感した。
「休んでいる暇はない。君は我が輩が兼業の怪人であることを忘れたのか。重要な問題は週末のうちに片付けなければ」

折紙探偵団九州コンベンションに向かう東京-小倉-新鳥栖の新幹線車中では、評論家の千野帽子さん大プッシュの、昭和の鉄道小説『七時間半』(獅子文六)を旅の友にした。小説の中では東京-大阪が7時間半だが、現実では東京-新鳥栖が5時間半である。父母の世代の青春物語だが、いまでも軽やかに楽しめる熟練の筆だった。いっぽうで、中高年女性がふつうに和装だったり、乗客が列車内で床にゴミを捨てているというディテイルに、そうだったよなあと。

上記のように、九州コンベンションのための山梨-佐賀の往復は、飛行機ではなく新幹線を使った。その道中の本としては、佐賀出身のひとの話である『われ判事の職にあり 山口良忠」(山形道文)を用意した。戦後に闇米を拒否して栄養失調で亡くなった判事の伝記である。しかし、物理的にも重い本なので、けっきょく、往路は『七時間半』、帰路は『ファインマンさんの流儀』(L. M. クラウス著 吉田三知訳)にした。

なぜ山口判事の伝記を読もうと思ったかというと、彼の長男である山口良臣氏の自伝的小説があることを知り、それを読んだからである。牧野信一氏の小説から題を借りた、『父を売る子』という小説だ。これを読んだ第一の理由は、著者に会ったことがあるからだ。30年以上前、わたしの折り紙作品「悪魔」のデビューとなった『サイエンス(日経サイエンス)』の別冊付録『おりがみの科学』に関連してのことである。

当時、わたしは学生だった。この別冊付録の図を描き文を書いたのは、主に折り紙作家の笠原邦彦さんで、わたしは編集者とつっこんだ打ち合わせをしたわけではなかった。この記事の「悪魔」の展開図のキャプションに、笠原さんもわたしも言ってもいないし書いてもいない、完全に誤った比率が記された。そのミスが明らかになったさい、担当の編集者が、二十歳そこそこのわたしに、平身低頭でお詫びに来た。なぜそうなったのかの説明はなく、ひらすら詫びられた。

それが山口良臣さんだった。どういう経緯だったのかたしかな記憶はないが、彼が山口良忠判事の長男であるという「内輪話」もわたしの耳にはいってきた。本人から聞いたわけではない。山口判事の話はわたしでも知っていたので、すくなくとも昭和の末まで有名な話だった。山口さんが「若いのにすでに業績をのこされてすごいですね」とわたしを持ち上げるので、逆にいたたまれなくなったことを、いまはもうない古い実家の玄関の佇まいとともに思い出す。

このことは、ひとに話したことはほとんどなかったが、今回読んだ『父を売る子』の中に、この頃の精神状態を描いた次の文章があり、ああそうかと妙に納得し、もう30年も前の話なので、書いてもよいかと、ここに憶い出を記してみた、ということである。
徐々に私の仕事はいい加減になっていった。心の張りはすっかり失せ、多くの、今も思い出すたびにひたすら恥入るしかない失敗をした。それらの失敗の一つ一つをだらだらと書き連ねても無意味なだけ。私は、編集部になんと多くの迷惑をかけたことだろうか。

たぶん、わたしの件よりも、ひどい失敗もあったのだろう。

そして、会ったことがあるひとの自伝小説といいえば、最近もうひとつ読んだものがある。田中りえさんの(『ちくわのいいわけ』)である。田中小実昌さんの次女で小説家のりえさんが、2年前に若くして亡くなったことは、最近知った。そして、亡くなる数年前に発表し、亡くなってから単行本化された小説『ちくわのいいわけ』があることも知った。彼女は、わたしの従姉の子供のころの友人だった。

あるギャラリーのブログに、叔父と画家の野見山暁治さんが同じ場所に暮らしていたようなことが書いてあるが、これは、わたしがこのギャラリーに行ったさい、その言葉がうまく伝わらなかったことによるちょっとした誤解である。父母の(つまりわたしの)家族と、美術家の叔父・前川直の家族が同居していて、その叔父と、近所に住む野見山さんが知り合いで、交流があったのだ。叔父の長女(従姉)はわたしより2歳年長で、幼児から小学生まで、わたしの兄と、兄姉弟のようにして育った。この従姉の友人に、野見山さんの姪にあたる田中りえさんがいた。

りえさんだけでなく、野見山さんや田中小実昌さんもうちに遊びに来たことがたびたびあったらしいが、わたし自身はあまり記憶がない。りえさんが大学在学中に小説を書いたときは、家族で「へえー、あのりえちゃんが小説を書いたんだ」と話題になった。ただ、わたしは読まなかった。いま思えば、同世代のなんとなく知っているひとが書いた小説に、ブンガクセーネン的な嫉妬のようなものもあったのかもしれない。

『ちくわのいいわけ』では、ショートカットの髪型が彼女の風貌の特徴になっていたが、子供のときの彼女は髪が長かったように記憶している。この小説自体は、天衣無縫、というより、むやみに読点が多いので、太い糸でざくざく縫ったような文体と、脈絡のあるようなないような飛び跳ねる話の流れが、奇妙な感覚へ誘うヘンな話だった。どこかすっとぼけた感じは、武田百合子さんのエッセイも連想した。知っているひとかどうかとはまったく別にして、こんな魅力的な書き手がいることを知ったとき、そのひとがもういないというのは、とても寂しい。

コメント

_ もん ― 2015/07/15 11:32

20数年前、我が家に「ビバ!折り紙」がありました。
先日綾辻行人著「迷路館の殺人」を読んでいたら、登場人物が折り紙で
悪魔を折っている描写が。「これってあの悪魔だよなぁ」と思って
読み進めてあとがきにたどり着いた時、思いがけない再会に嬉しくなりました。
悪魔は一度見たら決して忘れられない作品です。
ちなみに当時の私(10歳くらい?)には折れませんでした。

_ maekawa ― 2015/07/22 12:05

返事が一週たってしまいました。
文庫の『迷路館の殺人』の解説は、いま思うと、話をもらってうれしくて、ハイテンションに書きすぎたかな、と。

先日も、大学院生から、「父親の本棚に『ビバ!おりがみ』と『トップおりがみ』があって...」というふうに話かけられました。厚生労働省の定義的には、中年の真ん中なのですが、ご隠居の気分もわいてきて、それはそれでいいなと。「悪魔」、機会があれば、折ってみてください。

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