ボルヘス『El Hacedor』からのあれこれ2013/04/07 23:03

ボルヘス『El Hacedor』
東秀明さんから、彼の作品が表紙デザインに使われた二冊目(一冊目に関してはこれ)、アルゼンチンの作家・ボルヘスの『El Hacedor』をいただいた。スペイン語なので読めないけれど、装幀を愛でさせてもらった。

スペイン語といえば、Tejaという単語を最近覚えた。天文業界は、チリの5000m高地にできた大型電波天文台が大きなトピックなので、システムの名前などにもスペイン語(チリはスペイン語)にちなむものがちらほらある。当の大型電波天文台の名前もALMA「Atacama Large Millimeter/ submillimeter Array」(アタカマ大型ミリ波/サブミリ波干渉計)というのだが、これはスペイン語の「魂」にかけている。電波天文データ解析用ソフトウェアも「Common Astronomy Software Applications」の略でCASAという。これは「家」の意味だ。最近、このシステム上で動作するスクリプトを書いたのだが、「家」の上ということで、rooftop(屋根)という名前にしていた。しかし、ふと思って、スペイン語のTeja(瓦)に変えることにした。ただ、TEJAをなにかの略にこじつけようとしたが、これはうまいこと思い浮かばなかった。


昨日は、『El Hacedor』の内容も読みたくなって、訳書(『創造者』 鼓直訳)を買ってきた。詩と散文の断片を集めたような本で、著者自らは「雑録」と称している。

ざっとしか読んでいないけれど、いいなと思ったのは以下の一節。
語り伝えによれば、オデュッセウスは驚異に倦み、
緑ゆたかな慎ましいイタカを望みみて
懐かしさに泣いたという。芸術は驚異ではなく、
緑ゆたかなあの永遠なイタカなのだ。
(『詩法』より)

イタカというのは、ホメロスの叙事詩で有名なオデュッセウスの故郷のことだ。オデュッセウスの長い長い帰郷物語は、彼と妻・ペネロペによる『幸福の黄色いハンカチ』のような夫婦愛の物語の原型という認識だったけれど、なるほど、平凡な日常の輝かしさという側面もあるのかと、認識をあらたにした。

平凡な日常の輝かしさと言えば、昨日つけていたTVでたまたま見た、NHKの復興支援ソング『花は咲く』のアニメーションがとてもよかった。マンガ家・こうの史代さんのキャラクターをつかったもので、ちいさな海辺の町の日常が描かれていた。