ねじれ立方体など2011/10/08 11:00

ここ数日、空いた時間は、ほとんど「ねじれ立方体」関連のことを考えていた。予定表が埋まっているときに限って、関係ないことに熱中するのは、なぜなのだろう。試験前になると、小説を読んだり、パズルに熱中していた学生時代と変わらない。

発端は、切断面のある一枚折りで、ねじれ立方体をつくろうと考えたことである。ねじれ立方体(snub cube)というのは、正方形6面、正三角形32面からなる半正多面体である。歪立方体、変形立方体、ねじれ立方八面体などとも呼ばれる。正方形6面が立方体の面の位置にあり、面の向きを変えずに回転して縮小されることでできた隙間を、正三角形でつないだ立体だ。カリフォルニア工科大学のベックマン研究所前にある噴水が、この立体になっている(写真)。Sculptural Works California Institute of Technologyというページによると、鉄貯蔵タンパク質フェリチンの対称性を模したものということだ。(鉄貯蔵タンパク質フェリチンに関しては、このページ(日本蛋白質構造データバンク)の図を参照されたい。ナノスケールのカプセルで、自然のみごとさに感心する)

Snub cube at Caltech

Snub cubeという言葉だが、なぜtwistなどではなく、snubなのかがわからないので、これもすこし調べてみた。snubは、「鼻であしらう。船や馬などを急に止める。ぶっきらぼうな、獅子鼻の、ずんぐりした」といった意味だ。Snub cubeは、『プラトンとアルキメデスの立体』(ダウド・サットン著、青木薫訳)によると、ケプラーが名づけたラテン語の「クブス シムス」の訳ということだった。羅英辞典によると、cubusは、cubeのことで、simusには、たしかにsnub-nosed(獅子鼻の)の意味もあるようだが、splayed(斜めにする)ともあった。英語のsnで始まるsnob(鼻にかける)、snore(いびき)、sneeze(くしゃみ)、sniff(嗅ぎまわる)のような「鼻単語」よりも、「曲がった」という、より一般的な形容詞なのではないだろうか。単なる直訳なのか、「ぶっきらぼうなキューブ」というのは、どこかジョークぽくなっている。

さて。この立体は、正方形と正三角形という、いわば単純な面からなるのだが、まさに「ねじれて」いるので、対称面、切断面はけっこうややこしい。いくつか「両断シリーズ」を試したが、どうも扱いづらい。というか、わたしは、この立体に馴染みが薄かった。折り紙でも工作でもつくった記憶は、1回あるかないかだ。

そこで、まずは、ユニット折り紙の手法でつくってみることにした。使うパターンは、図の左端を基本にして、その6枚組にした。三角形8面を凹にするつくりである。写真左は、余計な折り目なしの、図左端の変則八角形でつくったもので、かなりきっちり組めた。厚手の紙を使うと、このままパッケージになりそうだが、組むのは易しくはない。このパターンを正方形用紙からとることは難しくない。AとBのふたつが考えられ、Bのほうがやや効率がよい。写真右はBからのものだが、折るだけで作図したので、余計な折り目がついた。

ねじれ立方体

さらに、この折り目の変形を試行錯誤するうちに、Aパターンからの6枚組みで立方八面体になるものができた(写真左下)。このモデルは、途中で現れる模様などが「折り紙的」にじつに面白い。さらに、上のねじれ立方体と同様の三角形八面を凹でまとめるという技法を使って、正方形の三等分の折り目で、斜方立方八面体の6枚組もできた(写真右下)。これは、単純な(まさにひねりがない)ので先例がありそうだ。

立方八面体、斜方立方八面体

ねじれ立方体に戻って、正方形の面を穴にすることを考えると、このブログの「ユニット貼り紙など」で示した正三角形からのモジュール8個で、きれいに組むことができた(写真左下)。写真右下は、同じモジュール20枚組のねじれ十二面体である。かなり脆弱になるが、ねじれ十二面体は、正多面体、半正多面体の中で、最も球に近い立体なので、ころころとしてよい感じである。しかし、モジュール数が20個になると、それを折るだけでたいへんである。わたしはあまり数の多いユニット折り紙をしないけれど、布施知子さんや川村みゆきさんは、いったいどうやってモチベーションをあげているのだろう、とあらためて思った。試行してうまくいかなったときは落ち込むだろうなあ。

ねじれ立方体、ねじれ十二面体

このユニット折り紙のように、これらの立体は、鱗紋のような「正三角形4枚つながり」の組み合わせで構成できる。それは、以下の表のようになる。表題の赤い部分が接合線である。

ねじれ多面体表

この表から、正二十面体を「ねじれ四面体(snub tetrahedron)」として解釈可能であることに気がついた。よく知られたことなのかと、snub tetrahedronで検索すると、Wikipedia(英語版)にもその旨が書かれていた『多面体』(P.R.クロムウェル著 下川航也 他訳)にも「問題 なぜ「歪四面体」がないのかを説明せよ。それを作ろうと思っても、よく知られた多面体になるはずだ」とあった。

この発想はさらに敷衍が可能である。かなり強引だが、正八面体を「ねじれ三面体」と考えるのである。三面体? 「二角形」3面からなるかたちである。「二角形」は、球面を三等分した舟形(図)と考えればよい。正八面体では、この舟形がスリットに変形するわけだ。なお、正四面体を「ねじれ零面体」や「ねじれ一面体」と考えることはできない。そもそもこれは、接合線の規則からはずれているからである。

三面体(?)