『アフリカにょろり旅』2009/11/26 23:46

 「事業仕分け」ですばる望遠鏡の経費も削られるとのニュースが流れ、メールボックスの中に、それに対しての緊急アピール集会のメールを見つけた今日、たまたま読み始めた、東京大学海洋研究所「ウナギグループ」の著者による、ウナギ探索冒険記『アフリカにょろり旅』(青山潤著)という、めっぽう面白い本で、以下のくだりに遭遇した。
大学院修士課程を終えた私は、ある時、ひょんなことから塚本教授に食ってかかった。
「研究者なんて糞だと思います。何もできないくせに口ばっかりで!」
すると窓の外に目をやった先生は、静かな声でこう言った。
「糞だって時間が経てば肥料になるんだ。百年二百年先には役に立つかもしれないじゃないか」
(そんな事じゃない! 今、この瞬間にも役立っているのかってことだ。ただの空論なんて聞きたくもない) キッと睨みつける私の視線を、先生は寂しそうな顔で受けとめた。
 しばらくたって、市民講座で先生の講演を聴いた。私にとっては目新しくもない「いつものウナギの話」だった。しかし、講演の後、決して豊かとは言えない身なりをした老人と孫なのだろう、連れて来た子供が目をキラキラ輝かせ、話す声が耳に残った。
「面白かったね。ウナギはすごい所まで泳いで行くんだね。不思議だね」
 その時私は、初めて生態学研究が何も作り出さないのではなく、自分自身が作り出したものを料理出来ないだけだったことに気がついた。
(そうか、俺が未熟なだけだったんだ)
 一見なんの役にも立たないようだが、研究活動は立派に人々の心の糧を作り出していたのである。

 そもそも、研究には、何かの「実利」を目的とするものと、好奇心という理由以外のなにもないものがある。研究者の名誉や生活なんてこともあるが、それらはとりあえずカッコにいれておく。多くの場合、名誉は小さな灯火で、報酬は少ない。好奇心という動機に基づくものに対して、役に立つ云々という問い、それは、文学が何の役に立つのか、音楽が何の役に立つのか、という問いにほぼ等しい。

 フェルミ研究所のロバート・ウィルソンが、大型加速器を視察にきた上院議員に応対した話も有名だ。(ちょっとひっかかるところもあるのだが、それは措く)
バスター上院議員「この加速器は我が国の防衛の役に立つのかね」
ウィルソン「何の役にも立ちませんが、我が国を守るべき価値あるものにすることには関係があります」

 ファラデーの話もよく知られている。
某貴婦人「その発見というのは、何の役に立ちますの?」
ファラデー「生まれたばかりの赤ん坊が何の役に立つのかと言われても困ります」

 「それはなんの役に立つの」という問いは、じっさいに問いであることもあるが、その多くは、「わたしは興味が持てない」という告白なのではないか。
 『アフリカにょろり旅』は、上の引用のあと、以下のように続いていた。
思えば、アンデスの友人たちも夜空を見上げて、星の不思議について語り合っていた。たとえ貧しくとも、人が人である限り、知的好奇心は心の栄養になっていることを知った。

コメント

_ Joker ― 2009/11/27 01:29

小平桂一「この望遠鏡をつくれば宇宙の果てを見通すことができるんです」、文教族議員「それは一体何の役に立つんだ」というのを、むかしプロジェクトXでやっていました。

平賀源内VS田沼意次「してエレキテルは何の役に立つのじゃ」というマンガも見た覚えがあります。

私は専攻がジェネラル・トポロジーで、バリバリのピュアマスでした。私自身のレベルはともかくとして、これこそ完璧に内部の好奇心だけで回っている世界です、いつも説明に困りました。隔靴掻痒。たとえば就職活動の面接とか(笑)。メンガースポンジが何なのか、研究のモチベーションは何か、どうしてもうまく言えない。

問題は性急さかなあ。貴婦人が意地悪な訳でも、ファラデーがとぼけてはぐらかしている訳でもない。古い言葉ですが、未来の子供たちにもセンス・オブ・ワンダーが輝いていて欲しいと思います。

_ cattleya ― 2009/11/27 14:51

【事業仕分け】を視聴 して (全て隈なく視聴している訳では無いが)

-あれこれ尤もらしい口調の担当議員- に直接,質してみたい想いに駆られて居る私   ★(叶うものなら其の現場へ出向きたい)★

*【国会議員定数の削減は、どうなっているのか (市・県・も然り)】
*【全議員の働き振り (仕事の内実) が見えて来ない!
*【『立候補』は、一般民の就活 (就職活動) と同じ】と思えるに   
  ,, 恵まれ過ぎているのでは ,,
  -此れが【『事業仕分け』の第一義ではないのか】- と。

_ grauke ― 2009/11/30 12:52

 こんにちは

 島根県を旅して参りました。
目的は、ある大社の祭事と国宝指定の大社造りを拝見することでした。近くに整備された古墳群もあって、古代に思いを馳せていました。

 そして、お食事処のテレビから科学事業の仕分けニュースが流れてきました。

 以前、友人同士の経済学部学生が天文学部学生に言った言葉で今も記憶にあるのが、「天文学なんて社会の役に立たない勉強しやがって」、、

 私は科学者ではないけれど、第二の地球が見つかれば人類の向かう先を考える手がかりになるかもしれないと思っています。(何の根拠もありません)

 でも自分の生活で食べる物にも緊張感があるとした時、まずは未来より今の生活をどうしようかと考えるでしょう。国費を使い得た研究成果を、とても子どもらが払える金額ではない講演料で講演や講義されているのを見ると少し残念でもあります。
 
 税金を費やすのであれば、納税義務者が理解できる言葉で説明をし理解を得る努力があってもいいのかな、と思いました。
公益性、、誰もが受けられる利益に大切な税金を使って欲しいです。

 ど素人が余計でしたら、お詫びいたします。

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