『雪華圖説』2009/03/17 20:49

方八円六
『雪華圖説』(1832)に以下の記述がある。『北越雪譜』でも引用されている部分を含む箇所だ。(文字は新字体に変更)
(雨は)気中ニ存スルヲ以テ、一々皆円ナリ。初円ハ至微至細。漸ヲ以テ併合シ、終ニ重体点滴ノ質ヲ致ス。(略)大円ヲ成サント欲シ、六ヲ以テ一ヲ囲ミ、綏々翩々、頓ニ天地ノ観ヲ異ニス。凡ソ物、方体ハ必八ヲ以テ一ヲ囲ミ、円体ハ六ヲ以テ一ヲ囲ムコト、定理中ノ定数誣ベカラス。雪花ノ六出ナルユヘンモ亦コレノミ。

「ものずき烏」というサイトで全文閲覧可能)
 正方形を敷き詰めると、周囲にそれが八個必要になる。いっぽう、円は、家紋の七曜のように六個の円が外接する。ということで、球体である雨滴が結合するときに、その幾何学的構造により六角形になる、と言っているわけである。球ではなく、平面図形の話になってしまっているのに「六出なる所以もまたこれのみ」と断言することなど、頭から物理・化学を追い出してもなお、なんでやねんと、つっこみたいところは多いが、『北越雪譜』の陰陽の説よりも、科学的というか即物的であるのは面白い。上記の引用のすぐあとには、「立春後ノ雪、ミナ五出ナル説アレトモ、取リ難シ」なんてことも書いてある。殿様学者・土井利位の側近に、蘭学者の鷹見泉石がいたことが大きいのだろう。
 なお、雪の結晶が六回回転対称になる(そうでないものもあるので「六回回転対称の雪の結晶があるのは」のほうが正しい)のは、分子・原子よりはるかにスケールの大きい水滴のかたちからは説明できないもので、水の結晶に水素結合による六方晶構造があることが基本である。もっとも、1800年代中頃には、原子論もはっきりしていないので、『雪華圖説』の記述も、ごくごく広い意味での結晶構造の説と考えれば、慧眼であるとも言える。ただ、これも、『雪華図説考』(小林禎作著:未読)によると、ドイツ人・J. N. Isfording著、オランダ人・G.J. van Epen訳、『Natuurkundig Handboek voor Leerlingen inde Heal-en Geneeskunde』(1826 訳せば『薬学学生のための物理学手引』?)からとられたものらしい。後に(1854)これを訳した『理學提要』(廣瀬元恭訳)に、「円なる者は皆六を以て一を囲む。是定理中の定数なり」と、うりふたつの訳文があるという。(『雪華図説再考』(鈴木道男著)による)
 それにしても、「水の結晶」を検索すると、水に「ありがとう」と声をかけると、きれいな結晶ができるという、お話としてもお粗末なトンデモ話がどっとでてくるので、江戸時代のほうがずっとまともに思えるのだった。

方円の畳紙2009/03/17 21:02

方円の畳紙
 円を正八角形に代用させて、陰陽道的な折り紙作品(?)「方円の畳紙」をつくってみた。白銀長方形からというのが「売り」である。正八角形と正方形は√2と相性がよいので、気持ちよい。「円」の部分を太極図(大韓民国の国旗の中心にあるもの)にしようかとも思ったが、技巧的になりすぎるのでやめた。たしか、ジェレミー・シェイファーさんがやったものがあるはずだ。このほかにも八角形の畳紙の面白いものがいくつかできた。