丸石神その22ー石と繭2009/02/13 23:27

山梨市の扁平丸石神
 先日、山梨市の県道31号で見たふたつの丸石神は、お供え餅のように扁平であるのが印象的だった。
 写真上の丸石神は、秋葉山と蚕影山(こかげさん)と刻まれた石碑の間に祀られている。秋葉大権現は火伏せの神様なので、「丸石神その20」で触れたように、道祖神が火伏せの霊験を持っていることを示す例にもなっている。
 写真下は、秋葉山の碑はないが、蚕影大神という養蚕の神様の碑がある。道祖神が養蚕の神も兼ねるのは後年の習合と考えられるが、そこには、丸石と繭の形態上の類似という、かたちの見立てがあるのではないだろうか、と思っている。
 ただし、カイコガの繭は、扁球でも球でもない。品種改良による変異もあるが、ヤママユガ(天蚕)の長球(ラグビーボール)ともすこし違った、円柱の両端に分割した球面をなめらかにつないだような、いわゆる俵型、もしくは、中央がわずかにくびれた瓢箪型である。
 見立てにおいて重要なのは、「それらしい」ことで、扁球と長球も横から見るとシルエットが同じになり、あまり細かいことにこだわるのもなんではある。しかし一方でこのことは、丸石道祖神がすでにあって、その後に養蚕の神も兼ねるようになったのであり、丸石が最初から繭を意味していたのではない、という歴史を示す傍証のひとつと解釈できなくもない。
 下の写真には、よく見ると、1月15日前後の道祖神祭りのなごりの繭玉団子(木の枝に丸めた餅をさしたもの)が供えられているのも写っている。思えば、繭玉も、その多くは繭のかたちではなく球である。これもまた、養蚕信仰とは異なる信仰であった「餅花」が、後に養蚕信仰と習合したため、という面もありそうだ。
 というわけで、わたしの関心は、先日のヤマカマス(ウスタビガの繭)の話にも繋がり、好奇心の網は広がるのであった。

 瓢箪型の繭と言えば、蜂の家のまゆ最中がそうだったことも思い出した。わたしの実家は、目黒区自由が丘の近くなのだが、亀谷万年堂のナボナとともに、あのあたりのお土産菓子と言えば、蜂の家のまゆ最中と決まっていたのである。
 さらに「そう言えば」なのだが、みごとな瓢箪型であったモスラの繭を思い出した。モスラと言えば、『モスラの精神史』(小野俊太郎著)に、モスラという怪獣が、養蚕・製糸産業の象徴でもあるということが書かれていて、本自体はとても面白いのだが、これに関して「眼からウロコ」、逆に「牽強付会」という書評が少なからずあったのに驚いた。小さい頃に観たときは、身近な建物のひとつであった渋谷東急デパートが壊されるシーンなど、ただただ特撮に興奮したのだが、ビデオが普及し始めて再度観たさいに、この怪獣が、かつては日本を代表した製糸産業(すでに斜陽産業となっていたが)を象徴、というより、すくなくとも、蚕という生き物が身近でかつ神聖な存在であることを、共通理解の土台としていることが、この物語の持つ多くの寓意のひとつとして、わたしの眼にも自明のことして映ったからである。わたしは変な深読みをしてしまうほうだが、これは、ほとんど眼の前にぶらさがっている象徴性であった。じっさい、モスラの幼虫は、チョココロネにも似ているけれど、カイコガの幼虫そのままなのだ。製糸産業がすたれた後に都会で育ったわたしにも、それとなく身につけた知識で、それを感じ取ることができた。よくできたお話というのは、常に重層的なものである。しかしいまや、モスラと蚕はまったく結びつかなくなった。それは、養蚕がいかにわれわれから遠いものになったかということを示している。

コメント

_ 田舎教師(TAKS1) ― 2009/05/10 10:32

お久しぶりです。
先日撮りっぱなしにしていたヴィデオを見ていたら、甲州街道駒場~勝沼間の丸石神が紹介されていました。番組関連サイトでは判りにくいのですが、4体の丸石が正四面体をなすように積まれた物でした。安定した形だから、まだ数百年は保つのでしょう。
番組は、四国遍路歩き旅に挑戦中の私好みのものですが。
「NHK-BS 街道てくてく旅~甲州街道完全踏破 てくてくブログ」
http://www.nhk.or.jp/tekuteku-blog/100/3001.html

そういえば、「北越雪譜」。実家の本棚の肥やしになって随分経ちます。
仕事が忙しい時期に手にしたので、途中で投げ出したままでした。

_ maekawa ― 2009/05/12 21:32

正四面体積みというのは、まだ見たことがありません。
わたしが丸石神に惹かれる最大の理由は、その幾何アート的な佇まいにあるので、ぜひ見てみたいものです。球の充填に関連する「ケプラー予想」にちなんで、「ケプラー丸石」と名付けたいです。って、なんじゃそりゃ

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