計算にかたちを見る2007/10/29 00:28

 『ぼくには数字が風景に見える』(ダニエル・タメット著 古屋美登里 訳)を読んだ。アスペルガー症候群(知的障害のない自閉症)にしてサヴァン(計算や記憶力、絵画などに特別な才能を示す)で、共感覚(数字に色や図形を感じるなど)もあるという青年の手記である。まったく初めての言語を1週間でマスターする言語能力や、円周率を2万桁以上暗証する記憶力も驚異的だが、数の認識や計算において図形が見えるという感覚が、なによりも想像を絶している。89が舞い落ちる雪で、37がぼつぼつしており、ふたつの数のかけ算がふたつのかたちによってそのあいだにできたかたちだと言われても、驚くほかない。彼のリアリティーの肌触りを想像する以上のことは不可能だ。ただ、理解は不可能だけれど、どこか詩的である。
 そんな能力とひきかえになのか、彼は他人とのコミュニケーションがうまくできないという障害をもつ。しかし、彼は一歩ずつ人生を歩む。ひかえめに、それでもしっかりと前を向いて。たとえば、カウナスというリトアニアの街で約1年間英語教師のボランティアに行った後の言葉は、次のようなものだ。
「人と違っていることこそカウナスにいるぼくの強みだったし、それだからこそ人の役に立てたのだ。」