九字(ドーマン)2007/09/28 00:31

 二ヶ月ほど前に買った『魔よけ百科 かたちの謎を解く』(岡田保造著)をながめていて、あることに気がついた。13ページに「九字(くじ)紋の瓦」の写真が掲載されているのだが、この九字紋の格子が、縦5本横4本になっていたのだ。正しい九字紋は、縦4本横5本である。
 その軒瓦は、古いものではない。三重県鳥羽市の海の博物館の軒瓦である。五芒星(☆晴明紋:セーマン)と九字(ドーマン)は、志摩地方の海女が身につける魔除けとしても知られるので、博物館の屋根をこの瓦で飾った、ということらしいが、施工した業者さんのちょっとしたミスなのだろう。

 向きは違うが、この軒瓦の九字紋はよくできている。格子の前後関係もきちんと刻印されているのだ。そう、九字紋の格子には前後関係の決まりもある。これは、いわゆる「九字を切る」という所作に基づいている。「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」と唱えながら、指を縦横に動かす呪文、忍者なんかがするあれだ(中央図)。できあがった図形は、秩序だってはいるが、単純な対称図形ではない。
 家紋としては、遠山金四郎がそうだったらしい、遠山九字直違紋がある。(右図:ただし、中央図と比べると、前後(または上下回転)が逆になっている点には注意されたい)
 この紋は、かつて『数学セミナー』に連載されていた、伏見康治先生の家紋の幾何学的研究において、最もややこしい紋としてとりあげられていた、と記憶する。

 なお、『魔よけ百科』は、オカルトとは無縁の、魔除けの図像を博物学的に見るという本である。この本で初めて知った、九字に関するちょっとうれしい知識もある。鎧を納める具足櫃に「前」という字が書かれることが多いそうなのだが、これは「前」の字が九画であることから、九字を意味するためであるという。「前」の字が九字(ドマーン)を表すのであれば、姓に「前」の字を持つわたしは、自分のサインが魔除けになる。