用語 ― 2007/07/20 08:08
AMAZONでは、いきなり在庫切れ。入荷数が少ないだろうから、早くも幻の本になっている。
さて。誤植はある意味わかりやすいけれど、それとは違って、いまになって「気になる用語」というものがある。
- その1
- ミウラ折りの学術的な名称として「二重波形可展曲面」と書いた。過去にこう記されていたのだが、これは、そもそも「developable double corrugation surface」の訳語のようなものだ。developable とsurfaceという単語は頭と末尾で離れているが、通常、developable surfaceは「可展面」と表記する(ただし、中国語圏では「可展曲面」のようだ)。surfaceは工学や数学では「曲面」とする場合が多く、曲面は平面をも含むが、ミウラ折りは平面の組み合わせであり、曲面という言葉は誤解を招くところもある。三浦先生も、最近の論文で「二重波形可展面」としていた。よって、変更の機会があれば、「二重波形可展面」にしようと思っている。
- その2
- 沈め折りの一種・open sink foldは、英語圏で成立した用語(概念)である。これを「開く沈め折り」とした。ふつうに和訳すれば、「開いた沈め折り」になるが、全体をいったん広げるようにして押し込むという手順の感覚を伝えたいとの思いがあって、このようにした。つまり、以下のようなことである。
「閉じた(ままの)沈め折り」⇔「開く(ようにして)沈め折り」
しかし、「開いた沈め折り」は、ある程度定着しているとも言え、「開く沈め折り」は、語感としてもよいと言い切れないところもある。
- その3
- 「平織り」、つまりモザイク模様のような折り紙のことに関して、tessellation origami と書いたが、通例では、origami tessellationという語順のようだ。
なお、折り紙の本の場合、重要なのは、文章よりも図である。これは、(営業的に言えば)折り紙が特別に得意ではないひとが図を見て折り、つまづいた部分を修正してあるので、大きな間違いはない。はずである。
4D2UとFreeBSDと折り紙 ― 2007/07/21 19:48
この日のコンテンツは、「宇宙の大規模構造」。地球を離れ、太陽系を離れ、銀河を抜け、銀河団の泡構造までという映像である。細部に最新の観測や理論の成果が使われている。チャールズ&レイ・イームズの傑作短編映画「パワーズ・オブ・テン」の21世紀立体版だ。
4D2Uは、天文学における応用科学・実学というのはエンターテインメントであるということを、本家の国立天文台がど真ん中の直球で見せた施設である。天文学そのものがエンターテインメントだと言えば、そうかもしれない。…わたしの日常業務はそうでもないけれど。
観覧後、この、4次元デジタル宇宙プロジェクトのメインメンバーのひとり、国立天文台の小久保英一郎さんと話をしてきた。会うのは初めて。
なんの話をしたかというと折り紙についてである。これは、小久保さんがFreeBSDというOSのエバンジェリスト(伝道師)であることに関係しているのではないかと思っていた。Linuxのマスコットのペンギンは有名だが、FreeBSDのそれは、赤い小悪魔なのだ。ひとづてに、小久保さんが「悪魔の作者の前川氏に会ってみたい」と言っていると聞いたとき、てっきりそちらのほうだと思ったのだが、まったく違っていて、氏は『季刊をる』を購読していたなど、折り紙好きだったのである。スクーバダイビングもする小久保さんは、帆のようなディスプレイを持つ魚「ヤマドリ」を折ってみたい、だれか折ってくれないかと言っていた。
平田一式飾(ひらたいっしきかざり) ― 2007/07/22 21:27
「一式飾」とはなにか。ひとことで言えば、見立ての見世物である。写真をよく見てほしい。この龍は、すべて既製の陶器でできている。鼻先はガマガエルの置物、鼻の穴はレンゲ、角は燭台、眼は小鉢の裏、鱗は小皿、髭は碍子(?)、等々である。これすなわち、「陶器一式」という。他にも自転車部品一式、裁縫一式などがあった。
平田一式飾。それは、江戸時代に流行った見立て見世物が、ほとんどそのまま伝わっている、世にも珍しい民俗行事なのだ。この町のひとたちは、二百余年もこんなに面白いことやっているのだ。うらやましいし、偉い!
22日は、基本的には「祭りの後」の日なので、見学者は少なかった。小雨が降り続き、天気があまりよくなかったこともある。そんな中で、熱心に街角に点在する展示を見ていたわたしと妻は、讀売新聞の記者の取材を受けた。そして、東京からこのために来たと言うと、かなり驚かれたのであった。
岡山県北部のシャチホコ ― 2007/07/23 23:52
仮説1:民家のシャチホコは、備中(岡山県西部)の民俗であり、伯耆(鳥取県西部)にはいると減少するのではないか。
観察結果1:鳥取県にはいってもかなりの数が見られたが、減少の傾向は明らかで、安来市など島根県にはいると、ほとんど見られなくなった。ただし、松江市では若干数が観察できた。
本日、帰京のさいにも似た路線(特急出雲+新幹線)を使ったので、観察を行なった。
仮説2:民家のシャチホコは、備中(岡山県西部)の民俗であり、備中内では一定数の観察ができるはずである。
観察結果2:備中高梁駅を過ぎたあたりから、観察件数が極端に少なくなり、倉敷、岡山にはいると、ごく稀にしか観察できなくなり、仮設は崩れた。
とりあえずの結論:民家のシャチホコは、新見を中心とする、ごく狭い範囲の民俗である。
研究者のご教示を願う。(なんの研究者?)
感想 ― 2007/07/28 10:04
わたしが手をまわしたのではないかと疑われそうな絶賛もあるが、やはり「難しい」という感想もあった。それは、作品自体でもあり、図や説明でもあるだろう。しかし、「難しい」と言っていたひとが、「わかった」とひざを打つことになるという、著者にとって最高の喜びもあった。あとがきにも書いたように「わたしの個人的な「ユリイカ!」(わかったぞ!)を多くのひとと共有したい」というのが、本をつくった大きい動機なので、これはなによりうれしかった。
解説部分については、過剰なものと見るひともいるだろうが、三浦公亮先生からの「かこみの部分がとてもよく、参考になります」というコメントが、ほんとうにありがたかった。逆に、物足りないというひともいるかもしれない。
今週末には、日本折紙学会の隔月機関誌『折紙探偵団』の最新号も発行される。エッセイを連載中である。ふだんのわたしを知るひとからは想像がつかないだろうけれど、自分の文章が載った雑誌などは、面映ゆくてしばらくは身の回りから遠ざけてしまう。こうしたネットの文章にはあまりそういうことはない。なぜなのだろうか。
誤植2 ― 2007/07/28 22:29
100ページ:図51説明 図43,44(誤)→ 図48,49(正)一番目は、図の説明なので、より重要。
145ページ:図125説明 触覚(誤)→ 触角(正)
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